コラム

「サン・ジェンナーロの奇跡」

karakimami

もうすぐクリスマス、イタリア語ではNataleと言います。大文字で書くNataleとはキリストの生まれた日という意味でイタリアの年間宗教行事の中で最も神聖な日です。この日人々の心は寛大&穏やかになり束の間の平和が万人に訪れます。

さて、神に思いを馳せる日が近いということで、今回はナポリのある儀式について書かれた記事を取り上げたいと思います。記事(Il Posto)は少し古く2018年9月19日のものです。

『サン・ジェンナーロの奇跡とは?』

-ナポリの守護聖人の式典に起こった血液の液状化という儀式はどこから来たのか?-

 水曜日10時ごろナポリ大司教クレシェンツィオ・セペ枢機卿は通称“サン・ジェンナーロの奇跡”が繰り返されてる事を告げた。“サン・ジェンナーロの奇跡”とは伝承によればサン・ジェンナーロの殉教後、その体から集めた血液が液状化することを言う。通常通りミサの最後にセペは血を納めた小瓶をナポリの司教座教会堂にある聖遺物殿の王の礼拝堂の壁龕から取り出し信者に見せた。だがセペはミサの最中に気分が悪くなり、望んだように儀式の最後に教会の外に小瓶を持ち出すことはできなかった。 血が液状化する儀式は年に3回行われる:5月の最初の日曜日前日の土曜日、9月19日(サン・ジェンナーロの記念日)、12月16日で3日とも同じ手順で行われる。小瓶は拡大鏡のレンズの形で、持ち手は銀製、レンズの部分は2枚のガラスで中身を挟むように作られている。2枚のガラスの間には小さな2つの容器がはめ込まれていて、これもガラスでできている。小さいほうの容器は幾つかの黒っぽいシミを除いて空だ。一方もう一つの大きくて丸みのある容器には、取り出されるときは暗赤色の固形物が容器の半分まで入っている。

-血液の液状化の儀式はどのような役割をもっていて、教会はそれについてどのように考えているのか-

 小瓶を取り出した後、大司教は伝統的に受け継がれてきた上品と言うよりはむしろ乱暴な一連の動きをしながら小瓶を揺らす。教会の離れている所からでも分かるように大きな身振りで何度も小瓶をひっくり返す。少しして小瓶の中身が液状化し始める。これが有名な“血液の液状化”で、ほとんど常に吉兆と見なされる。こうして小瓶が信徒に見せられ、枢機卿は神に奇跡が許可したことに感謝する。 しばしば教皇たちや高位聖職者が参加する厳かな儀式であるにもかかわらず、教会はサン・ジェンナーロやサン・ジェンナーロ信仰、血の液状化現象について慎重な姿勢を取っている。ナポリの主要守護聖人であるサン・ジェンナーロは大変古い聖人で、伝承によると紀元後4世紀に生きた人だと言われている。つまり教会の“神話的”時代に属し、彼に関する情報の大部分は彼の死後少なくとも2世紀経って書かれた談話に由来する。彼の存在と彼の生涯の詳しいことははっきり確認できない。しかも14世紀以前に彼がナポリで崇拝された確証もなく、最初の血液の液状化儀式が記述されたのは1389年である。

-サン・ジェンナーロとは誰か-

 伝承によるとサン・ジェンナーロは紀元後3世紀生まれ、まだキリスト教徒の迫害が頻繁にあった時代にベネヴェント(カンパーニア州)の司教になった。熱心な布教活動が原因で捕らえられたが、死刑になるまでは簡単ではなかった。最初は生きたまま八つ裂きにするためにポッツォーリの円形劇場に連れていかれたが、猛獣を祝福したところ獣たちは奇跡的に彼に触れることを拒否して彼の前に跪いた。そこで裁判官は打ち首の刑を宣告し、執行された。小瓶に納められたサン・ジェンナーロの血は、打ち首になってまもなく信心深い女たちの手で集められたと言われる。

第2バチカン公会議の結果、幾つかの最も土着かつ民間信仰的形態に歯止めをかけようと試みられ、サン・ジェンナーロの名前は聖人暦から消され、通用語で言うところの彼の“記憶”と定義され、カトリック信徒全てを拘束する奇跡ではない。血液の液状化への民間崇拝は承諾されたが公認されてはいない。

-説明-

 サン・ジェンナーロの聖遺物はサン・ジェンナーロの聖遺物の礼拝堂委員会によって管理されている。世俗の委員会は1601年からあり、ナポリ市長以外にナポリの主だった貴族の末裔たちで構成されている。委員会はサン・ジェンナーロの遺物を科学的に踏み込んだ調査することを認めたことはないが、血液の液状化は“チキソトロピー”と呼ばれる現象と関係していると思われる。チキソトロピーの物質は通常は固まった状態だが、儀式のときに小瓶が揺らされるように振動や衝撃を受けて液状になる。数種類のインクがチキソトロピーの典型例である。CICAPによると中世にチキソトロピーの物質を作ることができたと推測される材料の一つは鉱物モリサイトでヴェスヴィオ山の斜面から豊富に産出される。固体から液体へ変わる物質を見せる、サン・ジェンナーロ信仰のような様々な聖人への信仰がこの地域にある説明がこれでできるかもしれない。レプッブリカ紙によるとセペは小瓶を納めている宝物庫を開けた時から既に液体化していたと祭壇で語った。

-ナポリとサン・ジェンナーロ信仰-

 ナポリのサン・ジェンナーロ信仰はとても民衆的で土俗信仰と結び付けられることもしばしばだ。血液の液状化儀式には100人ほどのナポリ人と観光客が参加し、拍手や叫び声が起こり、10人ほどがこのイベントを自分のスマホで記録する。長年に渡って、多くの政治家が信仰心からかあるいはサン・ジェンナーロの通俗性を利用しようとして儀式に参加した。最も良く知られた例の一つは前ナポリ市長と前カンパーニア州長アントニオ・バッソリーノがいる。伝統的に教会や民間信仰に批判的なコミュニストの集団内で育ったバッソリーノは幾度も儀式に参加し、他の信徒と共に小瓶にキスをする機会を得るために列に並んだ。今年は現ナポリ市長ルイジ・デ・マジストゥリスとカンパーニア州長ヴィンチェンツォ・デ・ルーカが儀式に参加した。市長は「サン・ジェンナーロがナポリに手をかざしてくださることが必要だ」と述べた。

                             (訳ここまで)

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