コラム

Buon Natale ! メリークリスマス!①

karakimami

街行く人々が一様にせわしなく、でもどこかウキウキしている12月になりました。もう少しすると日本では最大の伝統行事-お正月を祝うために年末の大掃除や御節作りに大忙しの月であり、クリスマスには子供はサンタさんのプレゼントを心待ちし、恋する人たちにとっては最高のイベントになることでしょう。

一方イタリア国内ではこの時期、最大の宗教行事である Natale (クリスマス)を迎えるために街は美しく輝き、行き交う人々はプレゼント選びに頭を悩ましながら懐を軽くすることに勤しみ、一年で最もやさしく寛大になる心が人々を暖かく包み込みます。

Natale とはキリスト教の最大行事すなわちイエス・キリストが生まれた日注1を祝う祝祭です。語源は、「誕生に関する」という意味のラテン語 Natalis のようです。その起原は諸説ありますが、遥かに古く一説には「ミトラス教」にあると言われています。mitraismo 「ミトラス教」とはペルシア起源の神 Mitra 「ミトラ」を奉ずる古代宗教の一つで、イタリア国内では Mitraismo 「ミトラス教」の遺跡を現在でも多くの教会の地下に見ることができます注2。 

Mitraismo の最初の痕跡は紀元前1300年前に遡ります(物的証拠はありませんがもっと古くから存在した可能性が濃厚です注3)。ヘレニズム世界を通じて古代ローマに広まったオリエント宗教の一つで、当時は古代ローマ世界の公的宗教に目されるほどの広まりと影響力を誇りました。Mitraismo は秘儀宗教なのでその多くは未だ不明ですが、初期キリスト教の形成に大きな影響を与えたことははっきりしています。

インド・イラン語では Mitra は、① 友情、② 契約(正義) という2つの意味があります。神話によると Mitra は平和を司る神々の一人で、恵みの雨を与え、植物を成長させ、健康を守る役割を担っていました。ゾロアスター教の善の神と悪の神を仲介する神にもなり、その後ゾロアスター教の7人の善神(中級)の一人になりました。このように Mitra はそれぞれの地域や時代で名称や役割少しづつを変えながら東方世界、西洋世界と広がり、ついに東の果ての小さな島国-日本にも平安時代にミールという曜日名になって伝えられました。

Mitra の変遷を巡るのは大変興味深いことですが、マッターホルンに登るような作業なります。ですからここではイタリアにやって来た Mitra を中心に見てみましょう。古代ローマの Mitra はイランの同神とはまったく性格が異なり、双方に繋がりはなく、バビロニアから古代ローマにもたらされた天文学の記述や専門用語などに例外的に関連性が見られるのみでした。

「Mitra は12月25日ある洞窟の中で穢れなき乙女から生まれた」と言われ、「彼の誕生を助けたのは数人の羊飼いだった」そうですが、あいにくこの記述は虚実ない交ぜになっています。とはいえ12月25日は冬至の日にあたり、教会はこの日をイエスの誕生日と定めました。4世紀以降ローマ・カトリック教会は聖書から離れ、古代ローマに無数に存在した様々な異教から儀式や構成要素を吸収し大きく発展したのでした。また、より本来に近い神話では Mitra は処女からではなく岩から生まれ、誕生したときすでに成人でした。Mitra が処女から生まれたという考えは言葉のあやから生まれた誤解と申しましょうか。Mitra は原初の物質=岩 から生まれた、この原初の物質は別名「原初の母( madre )」とか「純粋( vergine )な物質」とも呼ばれたので、おそらくここから donna vergine (処女)という誤解が生じたのでしょう。

クリスマスツリーもまた、冬でも葉が落ちないことから再生の象徴とされています。ツリーの天辺に星を飾ったり、ピカピカ光るもので飾るのは太陽神に関係する宗教( Mitra 教やゾロアスター教など)に由来すると言われています。実際に現存する太陽に関係する神(ヘリオス神や不敗の太陽神注4)のレリーフには、その頭部に太陽光を表す後光があります。プレゼントの交換もやはり古代に起源があり、サトゥルナリア祭の終わりに市民たちがローマ建国者のロムルスに敬意を表して蜂蜜、イチジク、聖なる小枝を交換した習慣が現在に伝わったものです。このように古代宗教を起源とする習慣が今日でもキリスト教の中に様々な形で息づいています。

それでは現代のクリスマスについて、Buon Natale ②ではクラウディア先生のお話を載せたいと思います。

 

注1 イエス・キリストが生まれた日は考古学的には未だ不明ですが、聖書の研究によれば夏ごろではないかとも言われています。

注2 San Clemente 教会( Roma )の地下など一部は見学可能です。

注3 Mitra の名前は紀元前1400年の文献に見られるとも言われています。

注4 Sol Invictus ( Sole invitto 「不敗の太陽」の意) は帝政ローマ後期に流行した3つの神、El-Gabal 神、Mitra 神、Sol 神を祭った三大宗教の通称。ただし Mitra 神は通常フリュギア帽をかぶっているので後光はありません。

 

 

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