コラム

ラクイラ(Aquila)の地震をめぐる衝撃の判決!

karakimami

世界の地震研究に関わる学者たちを不安に陥れた判決が、2012年10月22日に Aquila注1 地方裁判所(Marco Billi 裁判官)で下されました。これは2009年4月6日に Aquila 及び周辺地域( Abruzzo 州、Umbria 州、Lazio 州)で起きた地震(犠牲者309名)を「予知し得たのに警告しなかった」という理由で下された「衝撃的な判決」(L'Espresso 誌)でした。

 注1 日本では Aquila をラクイラという名で報道されていますが、ラクイラという名前の町をイタリア語の地図で探してもありません。L'Aquila をラクイラと訳したのだと思われますが、語頭の " L' " は定冠詞 la (La ) が Aquila と結合した形です。イタリア語の定冠詞は英語の定冠詞 the と同じような働きをしますので、この場合は Aquila という町名を特定するために付いている la (La ) です。この場合は町名を特定するため定冠詞を付けますが、一般的には町名に定冠詞は付けません。ちなみに定冠詞を付けると町名は以下のように変わります。

Roma (ローマ)→ la Roma (ラ・ローマ)、 

Milano (ミラーノ) → la Milano (ラ・ミラーノ) となります。

 またイタリア語の発音により正確な訳としてはAquila (アークイラ)、L'Aquila (ラークイラ)が相応しいと思われます。

 さて、判決は Commissione Nazionale per la Previsione e Prevenzione dei Grandi Rischi (Servizio Nazionale della Protezione civile 「市民生活を守る国家機関」 と Comunita' scientifica 「科学委員会」を橋渡しする部局、決まった日本語訳はありませんが直訳すると「大災害防止及び予測するための国家委員会」となります。)のメンバー7人に対して有罪として懲役6年を宣告しました。上記委員会が適切な避難勧告を行わなかったことが原因として地震による死者29名と負傷者4名の責任を追及され罪が問われたのですが、7名には6年の懲役以外に公共機関からの永久追放という大変厳しい判決です。

さらに賠償金 7,800,000 ユーロ(約8億3千4百万円)の支払いを7名及び政府に命じました。

事実イタリア政府は29名の死に対して政治責任を表明しています。

この判決を受けて翌日、同委員会の名誉委員長、委員長、副委員長が揃って辞職し、関係する国家機関は死に体の状態に陥っています。

そして言うまでもなくイタリアの科学界のみならずアメリカと日本にも衝撃が走りました。

アメリカで影響力のある非政府組織 Union of Conserned Scientists は「7名の味方に付く」と公式に声明し、また「不当で危険な判決にナポレターノ大統領が介入すべきであろう」とも言っています。

American Geophysical Union は大災害を解明するための各国の協力体制が混乱しかねないと警戒しています。気象予報士がトルネードの予報が外れたからといって罪に問われたり、疫学者がウイルスを予防できなかったからといって有罪になったら大変なことになりますから。

日本では当然のことですが、「このような裁判はあり得ない。地震予知というのは現況ではとても困難である」(日本地震学会)ことが周知徹底されています。

フランスのLe Monde 紙は「イタリアの科学者たちにとって重い罪」と挿絵付きでコメントしました。

それにしてもAquila で小さな地震があった後に科学者たちは「(地震を予知することには不確実さが常に伴うことを強調しつつ)大きな地震は起こりそうもなかったが可能性はあった」と断言しているのです。しかしながら実際には科学者の言葉は正しく伝えられずに、結果として被害が拡大したといわれています。

この裁判の行方によっては 前述の国家機関 Protezione Civile は科学者の協力を得ることが難しくなり、今後の活動に支障がでるのではないかと懸念されています。 Commissione dei Grandi Rischi (「大災害防止及び予測するための国家委員会」の通称)が所属する Protezione Civile はとても重要な機関で、自然災害や大災害、その他大惨事に類する災害が引き起こす損害や危険から環境や居住地、財産及び生活を保護するために国が提議するあらゆる活動や組織を包括するシステムです。

彼らの活動は様々な危険性を予測し防止すること、人民の救出、非常事態に際し必要なあらゆる行動をとることです。具体的には、地震、火山活動、水害、気象、火災、公衆衛生(伝染病など)、原子力、公害、環境破壊と多岐にわたっています。彼らの活動に科学者の協力は欠かせず、もし科学者との協力体制が難しくなれば、イタリアの大変重要な部分が機能不全に陥ることは必至です。対極的な見地からの解決が望まれます。

 

 

 

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