本来なら先月のブログの続きを書くべきところですが、今回は現代の話題を優先して取り上げます。
ナポリのゴミ問題が日本で報道されたのは1年ほど前でしたので、まだご記憶の方も多いと思います。「 vedi Napoli e poi muori ナポリを見てから死ね」という言い回しがありますが、これはナポリの世界的有数の美しさを称えた格言です。とはいえそのナポリにはゴミが山積みで、ゴキブリの天国に成り果てた有様に驚きと悲しみの溜め息が漏れたものでした。さて、ナポリが位置するところは南イタリアのカンパーニア州です(ナポリはカンパーニア州の州都)。少し話題がそれますが、イタリアには20の州があります。それぞれの州には州都があり、例えばローマはイタリアの首都でありラツィオ州の州都、フィレンツェはトスカーナ州の州都、ミラノはロンバルディア州の州都です。
そのカンパーニア州では都市の固形ゴミ問題が実に1994年から始まっていました。原因として挙げられるのは、ゴミ処理施設不足、また政治家、企業家、ギャングの利害が複雑に絡まり問題の解決を遠ざけていることです。このことはゴミ処理を基本的に請け負う Gruppo Impreglio インプレリオ・グループにとって、カモッラと呼ばれるギャング団との利害の対立を解消し、環境に十全に配慮した焼却炉の建設やゴミを分別収集、生ゴミを堆肥化する施設のプランニングの遅れの原因になっています。
カンパニーア州のギャング団はゴミの不法処理で利益を上げるのみならずゆすりと麻薬売買でも利益を得ています。一方合法的な企業の多く(これらの企業の背後にはカモッラが潜んでいることが良くあります)がコストを下げるために不法投棄をする場合もありますし、また他方ではゴミ処理の混乱に乗じてゴミ業界に参入することもあります。つまり危機的ゴミ状況が長引くなか、ギャングなどゴミ処理から強い経済的利益を得ている集団に対して現在に至るまで政治が決定的に対決姿勢を打ち出せないでいるのです。
時間が経過するとともに不法ゴミ処理集団は多くの従業員を抱え、一種の公共事業団のようになってしまいました。事態を決定的に解決するにはこのような似非事業団を全て解体するしかないでしょう。
前述のようにカンパニーア州では1994年から規則的にゴミ収集が行われず、路上にゴミが山積みになっています。ゴミを減らすための政策が不在なこと、ゴミの分別が徹底されていないこと、通称 cdr と呼ばれるゴミから派生する可燃物質用の施設がきちんと稼動していない(司法から差し押さえになった施設もいくつかあります。)こと。まさにこういった事がナポリやカゼルタ[i]にゴミで満載の景観をもたらしたのでした。
観光客にとっては初恋の王子様に裏切られたようなゴミとゴキブリが一杯いるナポリの路上風景、しかし住民にとってそれは悪夢以上のものです。昨年の某記事には「ゴキブリがたくさん這い回っても疫病をもたらす害虫ではないから大丈夫。雨季になったら下水道の水量が増すのでゴキブリはいなくなるでしょう。」という識者のコメントが載っていたのですが、単なる公衆衛生という問題以外に住民の健康が危機に晒されているのです。
ゴミ問題に怒りを募らせた住民や、有毒廃棄物が混ざったゴミの痕跡を消すためにギャング団がゴミを燃やすので、ダイオキシンが発生し、また様々な中毒が生じています。統計によると女性のすい臓、肺、胆汁の導管に腫瘍ができる割合は12%上昇しました。また人体への健康被害以外に農産物への影響が指摘されています。事実、カンパーニア地方の生産物の販売量はこのために減少しています。それはすなわちイタリア国内のみならず、国外でもカンパーニア地方の食品は汚染されているとしてこれを輸入しないことを意味しています。
先月イタリアの地方紙に以下のような記事が掲載されました。「…ペスカーレ研究所の最近の研究によると、ナポリとカゼルタで死亡率が15~20%上昇した。アチェッラ[ii]など幾つかの市では30%を超え、47%に達している。関係書類からゴミ問題による汚染の犠牲者は7年間で9,969人にのぼる。保健省の1月のレポートで「悪性腫瘍に関してカゼルタとナポリの死亡者数はイタリア全体の総数を上回る」と書かれていることからも危機的状況にあることが明らかである。…しかし適切な研究が行われていないため、政府の見解としては「この地域の住民の生活スタイル」が原因であるとしている。…土壌汚染と病理の関連が科学的にあるのか、あるいはこの地で悪性腫瘍が多いのは単なる偶然か。カンパーニア州のこの問題はまだ解明されていない、今ではどの研究機関も原因究明をしたがらないからだ」