コラム

ヴェネツィアの誇り高き職業 ~ゴンドラ乗り~ ①

karakimami

イタリアの、しかもヴェネツィアにしかない職業‥

それはゴンドラ乗りです。

ゴンドラという乗り物は独特で、その名の響きはミステリアスでおとぎの国に誘われるようです。「オペラ座の怪人」のヒロインが乗る船はゴンドラという設定が多いように思われますが、これもゴンドラが醸し出す神秘的なイメージがヒロインを異世界へ運ぶ乗り物に相応しく、物語の幻想性をゴンドラという小道具が引き立てて雰囲気を盛り上げています。

言うまでもなくゴンドラはヴェネツィアにしかない乗り物です。”squero” と呼ばれる小さな造船所で作られ、一つのゴンドラは280個の木のパーツからなっています。これらのパーツにはそれぞれ名称がついています。ゴンドラを作る技術は職人技で、このような職人技を継承する造船所は残念ながら今では僅かに数にまで減ってしまいました。かつて squero はヴェネツィア共和国にとって欠かせない重要な存在でした。個々の造船所はそれぞれ異なった方法でゴンドラを作り、造船所の前面には運河に向かって傾斜した広場を所有していました。1500年代の地図には現在ではなくなってしまったsquero が幾つも記されています。

ゴンドラに関する最初の記述は1094年、ヴェネツィア共和国第32代元首 Vitale Falier が交付した規定にあります。この規定によって元首はヴェネツィアの南の島の住人が “gondulam” (ゴンドラのこと)を納入しないことを赦しました。

1400年代のゴンドラは運河の他の船とさほど違いはありませんでした。1500年代に貴族の占有物になったことで、ゴンドラは大きく変化し始めます。こうした貴族の家では一艘あるいは複数のゴンドラを所有していました。もちろんゴンドラにはゴンドラ乗りが付いていましたので、いわば運転手つきのロールスロイスといったところでしょうか。

瞬く間にゴンドラは船体を除いてきらびやかに彩色され、豪華な布と金箔で覆われました。あまりにも華美になりすぎたためヴェネツィア共和国の元老院が統制できなくなり、とうとう松脂を使った黒い色(防水性を確保するために船体に塗られていました)に統一されてしまいました。そしてそれが現在にも受け継がれ、ゴンドラ=黒色 が定着したのです。

ところで、ほんの数十年前までゴンドラには中央部に取り外しができる小さなキャビンが付いていました。”felze” と呼ばれたキャビンは冬の寒さから乗客を守るために取り付けられていたのですが、視界を遮るとして観光客に不評だったため今では廃れてしまいました。実際、現在のゴンドラを利用する人は観光客です。1580年には10,000ものゴンドラが運河を往来していたのを想像すると現状のなんと寂しいことでしょう。

とはいえ、いまやディズニーランドでもおなじみのゴンドラ、それを操る人をイタリア語で “gondoliere” と呼びます。 Gondoliere はヴェネツィアに数百人しかいないので、職業としてはかなり希少性が高いといえます。「私もgondoliere になりたい!」という熱烈な声に応えてお教えしましょう。

Gondoliere (ゴンドラ乗り)になるには、

 

① ゴンドラ乗りには多大な技術が要求されます。通常こういった技術は親から子供へ代々受け継がれていくものですが、近年は若い世代から疎んじられ、こういった習慣は崩れています。ゴンドラ乗りには肉体的に優秀であること、理性的に判断できること、そして観光客の要求に応えられる美しい声を持っていることが必須条件です。

 

② ヴェネツィアにはゴンドラ乗り養成所が幾つかあります。ゴンドラ乗り希望者はこうした学校に通わなければいけません。義務付けられている外国語と、ヴェネツィア史及びヴェネツィアの美術史の基礎知識を勉強します。コース終了後、ゴンドラ協会が行う国家試験に合格したらゴンドラ乗り名簿に記載されます。

  • 18歳未満はゴンドラ乗り養成所に入学できません。

 

③ 最終段階です。一種の徒弟制度の下、見習いとして技術の習得に励みます。6ヶ月から12ヶ月間の徒弟制実地訓練コースを終えたら、何がなんでも試験に合格しなければなりません。ゴンドラ乗りの審査員5名の前で、もっとも困難な状況下(満潮時で交通渋滞の運河といった非常に困難な状況)で行われるテストは大変難しいのですが、いったん合格したら新米として熟練ゴンドラ乗りの交代要員として経験を積むことも可能です。

 

もちろんゴンドラ乗りになるには美声と才能以外に根気とやる気が必要であることは言うまでもありません。

 

では第2部でゴンドラ乗りの今昔をお伝えしましょう。

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