イタリア映画、恵比寿で「ネオ・クラッシコ映画祭2017」が3月11日~4月7日まで開催されます。ローマ郊外にあるチネチッタは欧州でも指折りの大きな撮影所で、ここの黄金時代に活躍したマルチェッロ・マストロヤンニ(1924-1996)やソフィア・ローレン(1934-)などの俳優や女優は現在かなり高齢になり、またフェデリコ・フェリーニ(1920-1993)などの名監督も鬼籍の人になって久しいです。当時ローマ市街にあった某バールはこうした映画関係者が集まるところで有名でしたが、所有者も変わった今では往時の面影はありません。
ところで、日本語に定着しつつあるbaristaバリスタという名詞を伊伊辞典で引くと意味は、
バールのカウンターで飲食物を提供する人、
バールの所有者、
バールを経営する人、です。
イタリア映画全盛期のローマではバリスタ以外に英語のbarmanバーマンと呼ばれる人たちもいました。イタリアのバーマンの意味は、
バールなどでカクテルを作る人
バールのカウンターで飲食物を提供する人、です。
この2語、どちらも使い方は極めて似ていますがバーマンの方が断然格が上だったそうです。ローマでバーマンと自称することができる(あるいはそのように称される)ためには、厳格に正確なレシピでカクテルを作ることができ、話芸に秀でている、座を盛り上げるために機知に富んだやり取りを顧客と行える、などが最低条件でした。それに対してバリスタは単に飲食物を提供するだけの存在だったので、バーマンやそれに付随する世界の華やかさとは無縁でした。職に対する誇りも違っていたそうです。マストロヤンニ主演の映画「La Dolce Vita甘い生活」が当時の雰囲気を良く現しています。
イタリア映画黄金期の映画が上映されるこの機会に、華やかな往時にも思いを馳せていただければ幸いです。
さて、ちょうどfanpageでアルベルト・ソルディについての記事があったので今回はその記事をご紹介しましょう。
その前にAlberto Sordiアルベルト・ソルディ(1920-2003)について少し。
アルベルト・ソルディはローマ出身の俳優、脚本家、監督でイタリアでの人気はその死後も高いです。残念ながら日本での知名度は低いのですが。今回ネオ・クラッシコ映画祭で上映される「青春群像」(1953年)のアルベルト役でデビューしました。この映画は無職の若者5人の人生を描いたもので、映画の舞台は北イタリアの港町リミニ、無職で無為に生活を送る若者たちが織り成す人生模様を描いています。根底には5人が故郷を出て都会で仕事を得て自立したいと思っていても怠惰で実行に移せないもどかしさが透けて見えるのですが、その中でただ一人、最年少のアルベルトは…。続きは映画をご覧になってくださいね。
『アルベルト・ソルディの忘れられないセリフ10選』
ちょうど13年前の2003年2月24日、ローマと映画界はアルベルト・ソルディに最後の別れを告げた。イタリアで最も偉大な俳優にひとりで、イタリアのみならず世界中でローマ的精神の体現者であった。ここで記憶に残る10のセリフを彼の最も素晴らしい映画から引用する。
① La grande guerra(大きな戦争)邦題「戦争・裸の戦争」
“Io non so niente! Se lo sapessi ve lo direi! Io sono un vigliacco, lo sanno tutti!”.「俺は何も知らない!知ってたらお前たちに言うよ!俺は臆病者だ、皆知ってるよ!」マリオ・モニチェッリの映画でソルディ扮するOrnesto Jacovacciオルネスト・ヤコヴァッチのセリフ。ローマ出身のオルネストと、Giovanni Busaccaジョバンニ・ブサッカ(ヴィットリオ・ガスマン)は第1次世界大戦で戦うために入隊させられる。
② Il vigile(警官)
“È meglio che ti ci abitui da piccolo alle ingiustizie, perché da grande non ti ci abitui più!”「不公平だってことを小さい頃から慣れたほうが良いんだ。大きくなったらもう慣れることはないからな!」1960年のルイジ・ザンパの映画「Il vigile」の中でローマ出身の都市警官Otello Cellettiオテッロ・チェッレッティが息子に言った教訓。
③ Un Borghese piccolo piccolo(小さな小さなブルジョワ)
“Ricordati che in questo mondo basta fare sì con gli occhi e no con la testa, che c'è sempre uno pronto che ti pugnala nella schiena”「この世界には目で頷けば事足りる事と、頭を使って否定すれば十分な事、背後からだまし討ちにしようと構えている奴がいつでもいる事を覚えておけ。」子供との会話の中で、Giovanni Vivaldiジョバンニ・ヴィヴァルディのセリフ。マリオ・モニチェッリの「Borghese piccolo piccolo」(1977年)より。
④ Il marchese del Grillo(グリッロ侯爵)
“Mi dispiace. Ma io so io e voi non siete un cazzo”「申し訳ない。だが私は良く分かっている、お前たちはくそったれじゃないってな。」1981年の映画「Il Marchese del Grillo」の有名なセリフを引用した。Onofrio Del Grilloオノフリオ・デル・グリッロが大衆食堂で捕まった貧乏人たちを振り返って言うセリフ。Gioseppe Gioacchino Belliジョセッペ・ジョアッキーノ・ベッリの戦争反対歌「Li soprani der monno vecchio」から引用された。
⑤ Un Americano a Roma(ローマのアメリカ人)
“Maccaroni! …uhm… maccaroni! Questa è robba da carettieri. Io nun mangio maccaroni, io so' americano". Ma la tartina di pane con yogurt, marmellata e mostarda lo disgusta, e quindi: "Puah! … Ammazza che zozzeria, ahò! … Macaroni … m'hai provocato e io te distruggo, maccaroni! I me te magno! Questo o damo ar gatto! Questo ar sorcio, co questo ce ammazzamo e cimici”「マカロニ…、ウエッ、マカロニ!馬車引き向きの食い物だ。俺はマカロニは食わない。俺はアメリカ人だからな。」しかもヨーグルト、ジャム、マスタードを乗せたパンのカナッペにうんざりして「うわっ、こんな汚いもの殺されちまう、ゲッ!…マカロニ、俺を挑発してんだな、お前を殺してやる、マカロニめ!俺はな、お前を食ってやる!こいつぁ猫の愛人かネズミの愛人か、こいつで南京虫を殺しちまえ」(意訳)イタリア映画の中でも屈指の洒落たセリフ。Stenoステーノ監督の「Un americano a Roma」(1954年)から。
⑥ Borgorosso Football Club(ボルゴロッソ・フットボール・クラブ)邦題「ローカル・サッカー・クラブのヒーロー」
"Siamo tutti del Borgorosso rosso rosso rosso rosso. Bianconeri del Borgorosso, Borgorosso Football Club. Bianconero è dipendente del Benito Presidente, presidente del Borgorosso rosso rosso Football Club"「俺たちはみんな、真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤なボルゴロッソ(訳注:ボルゴロッソのロッソは赤の意味)のメンバーだ。ボルゴロッソの選手だ、ボルゴロッソ・フットボール・クラブのな。選手はオーナーのベニートに従う、ボルゴロッソ、ロッソ、ロッソ、フットボール・クラブのオーナーに。」オーナーになったベニート・フォルナチャーリがボルゴロッソ・フットボール・クラブを讃える印象深い場面での最初の一節。
⑦ Il Tassinaro(タクシー運転手)
"Ma che, noi italiani ve imponemo a voi forse una trasmissione in televisione de nome Valmontone, Portogruaro, Gallarate? Perché voi ce dovete rompe li cojoni con ‘sto ‘Dallas'?"「まったく、俺たちイタリア人はあんた達にガッララーテやポルトグルアーロやヴァルモントーネみたいな名前(訳注:全て地名)をテレビで放送するように押し付けたんだろうな。まったく何であんた達は“sto ‘Dallas’”みたいに(名前を)壊しちまうんだ?」1983年の「タクシー運転手」でアメリカ人の旅行客との口論で。
⑧ I Vitelloni(子牛、怠惰な生活を送る若者)邦題「青春群像」
"Lavoratori! Lavoratori della malta! Prrrr…".「勤め人!モルタルの勤め人!プッ…」もし“マカロニ”の場面が筆頭だったら、2番目にはもちろんこの場面だ。職人の一団を前にして拳を振り上げるジェスチャーまでして、しかめっ面のソルディが言うセリフ。フェリーニ監督の「青春群像」(1953年)から。
⑨ Nell’anno del signore(神様の1年)
"Popolo, ma che te sei messo in testa? Ma che vuoi? Vuoi comanna' te? E chi sei? Sei papa? Sei cardinale? O sei barone? Ma se non sei manco barone chi sei? Sei tutti l'altri! E tutti l'altri chi so'? Rispondi! Rispondi a me, invece di assalta' i castelli! So' li avanzi de li papi, de li cardinali, de li baroni, e l'avanzi che so'? So' monnezza! Popolo, sei ‘na monnezza! E vuoi mette' bocca?“「大衆よ、何を考えているのだ?何が望みだ?命令したいのか?おまえは誰だ?教皇か?枢機卿か?領主か?領主でもないのならお前は一体誰だ?お前は誰でもない!誰でもないのは誰だ?答えろ!私に答えろ、城を襲う代わりに!誰でもないのは教皇のごろつきだ、枢機卿のごろつきだ、領主のごろつきだ、それでごろつきとは誰だ!屑だ!大衆よ、お前は屑だ!なぜ口を出したがる?」ソルディ扮する修道士が教皇に統治されていた1800年代のローマで抗議する大衆に向かって言うセリフ。Luigi Magniルイジ・マーニ監督「Nell’anno del signore」(1969年)から。
⑩ アルベルト・ソルディ、アルベルトーネ(Fat Albert and Cosby Kids)のセリフから、"La nostra realtà è tragica solo per un quarto: il resto è comico. Si può ridere su quasi tutto"「私たちの現実は4分の1だけ悲劇で、残りは喜劇だ。何にでも笑うことができる」
(訳ここまで)