前回、といってもだいぶ前になりますが、tartufo トリュフの概論を書きました。
トリュフは古くは神秘の力を持つ食物として、また現在では大変高価な食材として珍重されているのは皆様ご存知の通りです。
このように古代より人類に愛されてきたトリュフに関しては歴史や神話などレシピ以外にも語るべきことが山積しているといっても過言ではありません。
さて…繰り返すようですが、市場に出回っている多くのきのこのなかでトリュフは昔からもっとも高価でした、そして未来でも間違いなくトップを走りつづけるでしょう。
さあ、高価なものにありがちな事件とはなにか…それは偽物が引きも切らずに登場するということです。
トリュフの詐称、詐欺、ぺてん…こういった事件は珍しくありません。あいにくとてもありふれた事件なのです。でも注意しなければいけないのは、出所があやしいトリュフは法律で規制されないため不適切な方法で保存されていたり、有害な物質が使われていたりするので人体にしばしば危険になることです。
市場に出回っているトリュフについて、某トリュフ協会は以下のことに注意を促しています。
① 中国産トリュフ トリュフとしての価値は低いにもかかわらず、イタリア産の物と同様の値段で売られている
② terfezia 子嚢菌類のきのこ。外見がよく似ているため、”正真正銘”のトリュフとして市場で売られているが、ほとんど価値が無い。
③ 人工的にトリュフ風味を付けた食品 高価なトリュフをまったく使用せず、科学添加物で風味を付けただけのもの。
また同協会によると、最近のイタリア市場での”偽物”トリュフが占める割合は全体のおよそ60%で、実際それらは偽の説明書をつけて販売されています。法律で「イタリア産」と明記することを義務化しない限り、このような詐欺がなくなることはないでしょう。もちろんイタリアで販売を許可されているきのこの種類に関してはきちんと法整備されています。
最上のトリュフ( Tuber melanosporm)の産地はイタリア、フランス、スペインです。アジア産のトリュフは残念ながらそれほど価値はありません。1998年に大きな中国産トリュフがイタリア産の中でも最高級の tartufo nero pregiato di Norcia (ノルチア産の最上黒トリュフ)と偽装されました。またCarabinieri の NAS注1 が50トンの中国産偽トリュフ( Tuber indicum himalayenis )を押収したことにより発覚しましたが、犯人は1キロを約10ユーロで買い付け、それに偽の説明書をつけて20倍以上の値段で売りさばこうと目論んでいたとのことです。またボローニャの NAS は300kg以上の北アフリカ産のトリュフを押収した、あるいは出所不明の偽トリュフを黒トリュフのオイル付けと偽って販売した…など例を挙げたらきりがありません。
では、偽トリュフを阻止する方法はないのでしょうか?
Nature 誌(2010年3月28日)で発表された研究結果が偽物阻止に役立つかもしれません。これはフランスとイタリアの研究者の共同研究(ナンシーの Inra センター)で、彼らは5年の歳月をかけてヨーロッパ産トリュフのゲノムを解読しました。イタリアではトリーノとペルージアのCnr注2 グループ、パルマ、ラークイラ(アークイラ)、ボローニャ、ローマ、ウルビーノの大学がこの研究に携わっています。
「研究結果でもっとも驚くべきことは(ゲノム配列)の量の多さにあり、現在解明されている他のきのこのゲノム配列のなかで黒トリュフは最大量の1億2500万のゲノム配列を持っています。
DNA の58%は幾つかの遺伝子が組み変わったものです。また、たんぱく質を作る遺伝子は7,500個で、そのうち6,000個の遺伝子は他のきのこと一致していますが、100個ほどのゲノムはトリュフ特有のものであり、樹木との共生関係やトリュフ特有の形態を形作るために必要不可欠な役割を担っています。」
(Paola Bonfante, Istituto per la Protezione delle Piante del Cnr e dell' Universita' di Torino、部分訳 )
この研究により、トリュフの出身地を特定することも可能になる、というのです。もっとも上記のトリュフ事件はこの研究発表後の2012年に起こったことですので、トリュフ購入の際にはまだ注意が必要でしょう。
最後にトリュフを使ったメニューを一つご紹介します。
「Fettunta al tartufo」(トリュフのフェットゥンタ)
材料: Pane toscano (トスカーナ風パン)、にんにく一片、オリーブオイル、トリュフ
作り方: トスカーナ風パンを4枚にスライスし、グリルできつね色に焼きます。トリュフを薄くスライスし、ティースプーン3杯のオリーブオイルとにんにくを一緒に小鉢に入れます。フォークで丁寧に細かく砕いて風味豊かなソースにします。ソースができたらパンに塗り、塩を少し振ってすぐ食べましょう。
トスカーナ風パンは、トスカーナ州、ウンブリア州、マルケ州特産のパンで、塩をまったく使用していません。クロスティーニを作る際にも、よく用いられるパンです。日本で作るときはこの点に注意して材料選びをしましょう。
それでは、Buon appetito! (良い食事を!)
注1 Nuclei Antisofisticazioni e Sanita' dell'Arma の頭字語。イタリアの保健省と防疫省の中間に位置する組織 Comando Carabinieri per la Tutela della Salute (国防省保健警察組織部隊)の別称。
注2 Consiglio Nazionale delle Ricerche の頭字語。専門家によって様々な知的研究を監督・推進し、その成果を分析する機関。