Accademia Italiana

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唐木 麻美 )

「なぜイタリアの若者は憲法改正案を拒否したのか?」

12月4日に行われた憲法改正を問う国民投票は否決され、レンツィ首相は退陣しました。急遽任命されたジェンティローニ内閣が先日発足、レンツィ内閣の方針を踏襲する方針を発表し事態の鎮静化に乗り出しています。

国民投票否決直後のミラノの株価は大幅に下落し、その下落幅はイギリスのEU離脱決定時より大きかったのですがその後やや回復しました。改正案の立役者であったBoschi(ボスキ)議員は今や野党の攻撃の格好の的になっています。レンツィ政権の対立軸としてM5S(Movimento cinque stelle 5つ星運動)の党首Beppe Grillo(ベッペ・グリッロ)氏はこの機に乗じて一気呵成に政権を奪取したい勢いでしたが、日か経つにつれて冷静な分析がされるようになってきています。

今回の国民投票は若い世代ほど否決に票を投じたことが明らかになっています。主な原因である若い世代の失業率の深刻さは大変なもので、今年も度々デモが行われていました。優秀な人材が海外に行ってしまうことでイタリアの将来を憂慮し、そのための対策も今回の憲法改正案の中に含まれていたのですが、若い世代のレンツィ政権に対する失望は激しく、全く支持されていなかったという事です。

憲法改正を否定するというよりはレンツィ政権を否定するといった意味合いが強かったのでは、という感想もありました。

さて今回は若い世代に切り込んだ12月12日のrepubbliba紙の記事を見てみましょう。

『若い有権者の孤独』

~憲法改正案を拒否した理由がここにある~

Demos-Coopの分析によると25歳から34歳の70%がレンツィに拒否を示した。政府から以前約束された変化が得られなかったのだ。 国民投票後は急速に進んでいる。マッテオ・レンツィが辞任してパオロ・ジェンティローニが首相に任命され、既に各党との協議に入っている。まもなく新政権の組閣メンバーと綱領が発表されるだろう。とはいえ、新政権発足前に国民投票の結果を吟味しなければならない。 そして異議を申し立てることも。要するに“政治をする”ということだ。

第一にレンツィはこの投票を“個人の問題”にすり変えてしまっていたから、投票結果は間違いなくレンツィを“罰した”ことになった。だが勝者を特定することは難しい。誰と特定せず単に“勝者”と言ってしまったほうが良い。改正案を否定した党は複数で様々なので。いやむしろ違いがありすぎる...歴史も、理念も、法案も。

そのため、この投票結果を基にこれまでと違う新しい有権者のマジョリティを特定することは不可能である。反対に、今回の投票結果の意味について考えたほうがずっと良い。原因はどこで、どこに向かうのか、そして何が目的なのか、レンツィを超えて。

投票の分析結果からすでに幾つかの明確な指標が見つかっている。文字通り”否定”の背景に関して。

事実、憲法改正を否定した土壌の根は、まず第一にそして特に南部に根差している。南部で拒否に投票した割合は、各島々では70%を超えている。違うところみたいだ。カンパーニア州とカラブリア州は特別だ。民主党(レンツィ前首相が党首)と反対する気持ちや反レンツィ感情よりも、カンパーニア州のように幾つかの場合においては他に懐古的感情が重要だった。あの辺りに充満している荒んだ社会に関係し、経済と雇用プランに関する不満。今回の国民投票を明白に特徴づけた、他の“亀裂”を理解するために役立つ指標、その亀裂とは世代間のそれである。

すでに分かっているように、否定の意志は示された、それも広範囲にわたって半数以上が拒否に票を投じた、特に若者たちが否定したのだ。 まさに夜を徹して行われたDemos-Coopの分析も、それを裏付けている。しかも幾つかの事柄はより詳細で、重要だ。

特に改革やレンツィの民主党に対する不賛成は、18歳~24歳のとても若い世代にはあまり広がらなかったことが目立つ。一方より高いレベル(10人中7人が不賛成)に達していたのはもう少し大きいお兄ちゃん世代で25歳~34歳世代、彼らはよく“ヤング・アダルト”と呼ばれる。青年期の軛から解放されることの難しさが際立つ。特に家族からの独立。これは経済的問題でもあり、家族の問題でもある。

3人に2人はまだ両親と暮らしている(再び暮らす、と言ったほうが良いかもしれない)。ドイツ人やフランス人の若者たちと比べて2倍の数だ。10年前、最初の2年間に雇用者が理由を問わず若者を解雇することを容易にする初期雇用契約改正に反対する青年の抗議(当時蔓延していた)の動機を私のクラスの学生に聞いたことがある。すると彼らはためらわずにこう答えた「私たちはあなたのようなイタリア人ではありません。働き(社会)に出たら、そのあとは戻りません。家にも家族のもとにも。私たちは生きていく、暮らしを支える、独力で。」

実際にイタリアでも若者たちは独立したいと思っている、家族から。欧州の他の国の若者たちと同じように。だがそうできない。この件に関する法律が若者たちの助けにならないからだ。一方、欧州のなかで若者の失業率は一様ではない。だから学業を終えた後、しばしばニートの世界に流れて行ってしまう。勉強も働くこともしないニートの世界へ。彼らがそう望んだのではない、定職が見つからないのだ。一時雇いで不安定な仕事の暗い森に行ってしまう。そこでは家族という足場のおかげで生き延びることができる。これは急いで手を差し伸べなければいけない。

こういうことは頻繁にある。これでヤング・アダルトが将来に対する不安を最も抱えている(62%)ことの理由が説明できる、さらにキャリアを築くため(73%)に外国に移住する必要性が広く説得力を持つようになったことも説明できる。彼らの半数以上は(63%)両親の社会的地位に辿り着ける(両親を超えるとは言わない)ことが難しいことは承知している。とは言っても、彼らの僅か20%しか適正な可能性とチャンスが存在すると考えていない。

こうして年齢にかかわらずヤング・アダルトの約40%は、頻繁に孤独でいることを受け入れる。その割合は両親や祖父母たちよりはるかに多い、そしてまた25歳以下の年若い兄弟たちよりも。“ヤング・アダルトの苦しみ”なのだ。大概は、勉学を終えるあるいは“無職”と思いたくなくて勉強を続ける。一時的あるいはパートであろうと。このように不可避的に起こる、80年代に生まれた若者には。彼らは見えない存在になる。変装して。絶え間ない逃避のなかに。定職を探して。未来に。

だから若者がレンツィを否定した理由を理解することは難しくない。まさに“若者”だからだ。なぜならレンツィは若者に年寄りをお払い箱にして若者にもっと活躍の場を与える約束を過去にしたからだ。でも今でも“ヤング・アダルト”は不安定な状況に生きている。もはや若者でもないが、大人でもない。混乱している。私たちの社会では、みんな(ほとんど)が若者だと言う。そして突然年寄りになる。大人年齢を征服することは絶対ない。つまり成熟することなく突然年寄りになる。こうして“ヤング・アダルト”はM5S(5つ星運動)に親近感を抱く。

国民投票で拒否に投票したのは、希望がないから。彼らは未来を見ていない。でも希望や未来がなければ家族もまた牢獄と化す。イタリアでさえも。国から“逃げ出す”という望みしかない。自分を脅かす孤独から逃げること。孤独感は他の若者と一緒にいるとさらに倍増する。彼らと同じく苦しみのなかに。だが若者たちに答えを与えることができなければイタリアにもまた未来はない。イタリアは“ヤング・アダルト”の国であり続けるように運命付けられている。

                                                                                                           訳ここまで

若い世代が就職できない問題は、今年に限っても何度もデモが起きたことからも深刻さを増しているのが実情です。これにレンツィ政権が応えられなかったことが若い世代の支持を得られなかった敗因です。ただ憲法改正案自体は現状への特効薬にならなくてもじわじわと効いてくる良薬だったようです。ですからこの改正案が正しく評価されなかったことは残念です。M5S(5つ星運動)は対立軸として支持を伸ばしていますが、現在の支持が来年春前に行われる予定の選挙で選挙票に結びつくかどうかを巡っては懐疑的な見方が多いです。つまりレンツィ政権への不満の受け皿として支持を得ていますが、それでM5Sが政治で大躍進するための得票につながるかどうかはまだ分かりません。今後どうなるか、来年の春前の選挙で決定打が出るのでしょうか?

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