天気も良く、食も進むこの頃…先日スパゲッティ・アマトリチャーナについて質問を受けました。
スパゲッティ・アマトリチャーナとは何か?
大変良い質問です。料理は単においしさだけを俎上に載せるのではなく、文化と歴史が伴っているのですから、それらも含めてマルっと知ることが肝心だと思います。
では見てみましょう。
アマトリチャーナあるいはラマトリチャーナ(定冠詞を伴う場合、ローマの言い方)の名前はアブルッツォ州リエーティ県アマトリーチェに由来します。もともと大衆料理だったものをアマトリーチェ市が1927年までに様々なバージョンをまとめて公式に認めたのです。
使用する食材はグアンチャーレ、ペコリーノ、トマトですが、実はトマトは後から加入したメンバーなのです。もともとトマトはイタリアにはありませんでした。18世紀末にヨーロッパ大陸にトマトが持ち込まれたことで、トマトもアマトリチャーナを構成する仲間になったのです。実際アマトリチャーナの先祖はgriciaあるいはgrisciaという料理で、アマトリーチェ市から数キロ離れた小村に由来し、もちろんトマトの影も形もない料理でした。
gricia(griscia)を生み出したのは大昔の羊飼いたち。彼らが放牧に行くときの食材は、ラードと乾燥パスタ、グアンチャーレ、黒コショウ、ペコリーノでした。1800年代から1900年代初めにかけてローマでアマトリチャーナは非常に人気でした。当時すでに何世紀にもわたってローマとアマトリーチェが密接な関係にあったことが理由です。その頃のローマの食堂や宿屋の主人の多くはアマトリーチェ出身で、そのため「マトリチャーノ」という言葉は「賄い付き宿」を意味するようになりました。
アマトリチャーナは他の地域で生まれた料理にもかかわらずローマ人は熱狂し、瞬く間にローマの古典的料理の一つとみなされるようになりました。
ちなみにマトリチャーナというのはローマの方言の癖で語頭音が消失(語頭の母音もしくは音節が消失すること)したためです(例えばintorno(「周りに」の意味)のiがなくなって’ntornoになる)。
ではここでアマトリチャーナのオリジナルレシピをご紹介。
その前に、守るべき注意事項をいくつか。
使用するフライパンは鉄のものが良いですね。年代物の重いヤツです。この場合フライパンの底にくっ付くのを防止するためにスプーン半分量のラードを塗ります。現代の賢いフライパンであれば焦げ付き防止になっているのでラードは必要ありません。使うパスタはスパゲッティ、ブカティーニはローマ料理に取り入れられた後で用いられるようになりました。塩辛さが残ってしまうのでパンチェッタはいけません。ペコリーノはアマトリーチェ産のものが望ましいです、一般的に使われているペコリーノ・ロマーノより繊細な風味だからですが、両者とも問題なく使うことができます。オリーブオイルは禁止です。グアンチャーレはそれ自体の脂で炒めないといけません。もし両方を使えばグアンチャーレの風味とオリーブオイルの風味が喧嘩してしまいます。
それではレシピにいきましょう。
(4人分のレシピ)
所要時間 約25分、ローコスト(イタリア限定)、難易度:低い
スパゲッティ400g、グアンチャーレ200g、ペコリーノ・アマトリーチェ(ペコリーノ・ロマーノでもOK)120g、皮むきトマト500g
鍋にスパゲッティをゆでるための水、粗塩を入れて火にかける。ラードをフライパンに入れる(焦げ付かないフライパンだったらこの過程は省略)。短冊状にグアンチャーレを切ってフライパンに入れ、弱火でパチパチ弾けてくるまで炒める(ローマではsfrigolaと言う言い方をする)。グアンチャーレの脂身は透明になり、その後きつね色を帯びてくるようでなければいけない。火傷しないように気をつけながら網杓子でグアンチャーレを集めて、別皿に取り分けておくがグアンチャーレの脂はフライパンに残すこと。
フライパンにトマトを入れて10~15分火にかける。火が通ったらトマトをフォークで潰し、すりおろしたペコリーノ20gを加える。理論的に塩は入れない。グアンチャーレの塩分とペコリーノの塩分で十分であるから。でも味見をして塩が足りないようであれば2つまみの塩を入れる。
スパゲッティの水を切ってフライパンに入れてソースと和える。その間2分間は火をいれ、よく混ぜる。別皿のグアンチャーレと残りのペコリーノを加えて手早く混ぜ、熱いうちに取り分けるのがミソ!
ここで料理人泣かせの助言を一つ:ペコリーノは知り下ろした状態の物は買わないこと。塊を買って料理するときにすり下ろす。これが風味を最大限生かすコツ。
アマトリーチェ市公認のオリジナルレシピに基づく料理法を実践しているのが以下の動画なので興味のある人は参考にしてください。
今日はスパゲッティ・アマトゥリチャーナを作ってうんちくを披露しましょう。きっと楽しいです(たぶん自分だけ)。