一週間前に第75回サンレモ音楽祭2025が終わりました。今回から総司会者兼美術監督はテレビ司会者のカルロ・コンティに代わりアマデウス時代と少し雰囲気が変わりましたが、参加する歌手の実力は折り紙付きのハイクオリティでした。本レース、通称“Big”と呼ばれるベテラン歌手のレースの優勝者はOllyオッリーことフェデリコ・オリヴィエリ、ジェノヴァ出身の23歳でシンガーソングライター(ジャンルはコンテンポラリー、R&B、ヒップホップ、ポップ、アーバン)の「Balorda nostalgia(愚かな郷愁)」で、2位はグロッセート出身の31歳でシンガーソングライターの Lucio Corsi ルーチョ・コルシ「Volevo essere un duro」、3位はコゼンツァ出身の47歳でシンガーソングライター兼作曲家の Brunori Sas ブルノーリ・サスの「L’albero delle noci」という結果になりました。個人的感想ですが、1位と2位は若い世代の歌手、3位に壮年の歌手が位置することが多いように思います。審査は審査員以外に視聴者投票も加味されることも関係しているのかもしれません。
そして新人部門というべき”Nuove proposte”の優勝者は Settembre の「Vertebre」、2位は Alex Wyse「Rockstar」、3位は Maria Tomba「Goodbye (Voglio good vibes)」と同じく3位の Vale LP e Lil Jolieの「Dimmi tu quando sei pronto per fare l-amore」でした。
オッリーは昨年アンジェリーナ・マンゴとドゥエットしていて、ドゥエット曲「Per due come noi」もなかなか良いのでオススメの一曲です。ところで毎年思うことですが、上位になる曲の歌詞は広く共感を呼ぶものが多く、また言葉の使い方が本当に上手いと感心します。皆様もぜひイタリア語を勉強して味わってみてくださいね。
さて、音楽祭初日から有力な優勝候補だったGiorgia ジョルジア(「La cura per me」最終結果は6位)が音楽祭終了の2日後にDomenica InというRai 1のトークショーに出演した際、サンレモの表彰台には男しか登れないことを指摘し、こうコメントしました:「たぶん私たちのメンタリティに何千年とこびり付いている何かあるのです。男が優勝しようと女が優勝しようと誰も騒がない、その瞬間こそが平等になったということなのでしょう。男や女の区別をする必要がない日がやって来た時、それが最高の日だと思います」。
またErodie エロディ(「Dimenticarsi alle 7」12位)は女性間の対抗関係を一切廃止することを要求し「私たち女性は互いに手を取り合っていました、なぜなら私たち(女性たちのこと)の一人が成功すれば、それは他の女性たちにもマーケットの道が開けることを理解しているからです。一人の成功は皆の成功につながるのです。」とコメントし、この言葉にジョルジアも賛同していました。
昨年のアンジェリーナ・マンゴ(「La Noia」)の優勝は実に10年ぶりのことでした。今年を含めて75回の音楽祭中女性の優勝者は18人…割と少ないといった印象ですね。毎年女性優勝者の少なさが指摘されるなかでのジョルジアやエロディの意見でした。
サンレモ音楽祭に性別に絡む何かがあるのか分かりませんが、イタリア音楽界の巨人である作詞家モゴール(88歳)はRai RadioのUn giorno da pecoraでのインタビューで厳しいコメントをしました:「ジョルジアはとても美しい声をしているが、30年前の歌い方だ」音色のすばらしさは認めるとはいえ、古いスタイルにとどまっているとして「声を使いすぎる。それは、言うまでもなく、大変良い事だが声の使い方が古い。声は言葉の裏付けであらねばならない、言葉を届ける声が信じうるものでなければ人々を感動させることはできない」と、モゴールとしてはかなり単刀直入な物言いで、さらに「彼女に私の学校で学ぶことを勧めたい」とも。
ジョルジアもこれに対して皮肉たっぷりに「30年前サンレモで歌うのは今よりずっと簡単でした。当時23歳の私は無責任で、愛に対する責任感なんて感じてなかったのですからね」(Che tempo che fa出演時のコメント)とモゴールの言う“30年前”にしっかり反論しました。
サンレモ音楽祭でどう評価されようと、ジョルジアもエロディも、オッリーもルーチョ・コルシも、参加者皆がハイクオリティで楽しいのですけれどね。毎年サンレモ音楽祭には乱痴気騒ぎと騒動が付きものですが、今年はこれがもっとも印象深い事件でした。
ではまた