コラム

「難民を巡ってイタリアとフランスが(いつものように)大げんか!」

karakimami

11月5日SOSヒューマニティ(地中海を渡海する難民を救助する非政府組織)の難民救助船Humanity 1(ドイツ船籍)がシチリアのカターニアにやって来ました。地中海域で救助された難民179人を下船させるために入港しましたが、イタリア政府が許可したのは“健康不安がある人”限定で、実際には女性や子供を含む144人の受け入れを許可しました。そしてHumanity 1には成人男性35人が残されました…さて、これがイタリアとフランスの間で外交問題にまで発展する大喧嘩の発端でした。

 Humanity 1の船長Joachim Edelingは「難民全員を下船させるまで港を離れるつもりはない」として政府に難民全員の受け入れを要求したのです。通常難民を下船させる場合、それと並行して不法入国者が潜入していないか検察による船の立ち入り捜査が行われます。今回は5日土曜日から6日日曜日にかけて夜を徹して捜査が行われました。そうこうする間に船の周りには難民救助活動家が集合しつつあり、「Tutti liberi e tutte libere(皆に自由を)!」のスローガンを掲げて政府に全員の下船を迫りました。5日土曜日夜、政府は船長に「緊急事態に対処する通常の期間以上港に留まる事を禁じる」と書簡を送ったことが同NGOから公表されました。これに対しカターニア地方行政裁判所に上訴する手続きを進めると船長は応じました。「私の弁護士によると、難民全員を下船させずに港を離れることは法律違反になる。船内の難民は鬱状態で無気力になっていて健康状態にも不安があり医療措置が必要だ。」とは船長の言。NGOのスポークスマンも「船にいる人たちは全員難民なので、全員下船させずに出航することは違法」と。こうしてGeo Barentsに国境なき医師団が到着し診療するために乗船しました。

 その間、他の難民救助船Rise Avobe(ドイツの非政府組織Mission Liflineが手配した)は難民89人、Ocean Viking(ノルウェー船籍)は234人、Geo Barents(ノルウェー船籍)は572人を乗せてエトナ沖に留まっていました。イタリア政府はGeo Batrentsに入港を許可し、240人が下船しました。

 イタリアの港の内外で立ち往生している件で、海での難民救助とEUと加盟国の責任に関する議論が再燃しました。国際法では難民は人道支援船に救助された後、最初に遭遇した安全な港で下船しなければいけないのです。EUはイタリア政府にこの義務を思い出させたのです。一方イタリア政府は船を所有する国が介入することを求めています。Humanity 1の場合はドイツですね。アントニオ・タイアーニ外相兼副首相は次の欧州首脳会議で「難民の上陸と移動ルートに関してヨーロッパレベルでの協議が必要である」と述べ、NGOに対して厳しい姿勢を示しました。また「船籍国が荷物積み下ろしを管理すべき」と付け加え、個々の国の問題ではなく全体のルールは遵守するとも。さらに「地中海を墓場にしないためにイタリアが健康不安を抱える人や子供、女性、妊婦の受け入れが優先されるなら、国として救助された難民の出身国や出身地を知る必要がある」とし、ルールを守るべきは各船の船長だと述べました。イタリアの政界もまた、左派や民主党は人権弁護士団体を組織して難民下船に向けて動き始めました。そして政府はGeo Barentsに人道支援に必要な期間以上の停泊を禁じました。

 上へ下への大騒ぎの結果、11月8日人道支援活動家が拍手するなか、難民全員が下船、イタリアに入国しました。また翌日11月9日にはRise Avobeはレッジョ・カラブリアに入港、難民全員が下船しました。なぜ全員下船できたのか…不思議ですね。マルタ沖での捜索救助案件と見なされたのでイタリア政府が問題視せず全員下船許可したのかな?

 ではフランスの非政府組織SOS Mediterraneeが手配したOcean Viking(ノルウェー船籍)はどうなったか?フランス政府はイタリアが「Ocean Vikingを受け入れて難民全員の下船を認めてヨーロッパの一員としてイタリアは責務を果たすべき」と声明を出しました。さらに「当該の船はイタリア領海内にあり、イタリアも認めているEUには極めて明快なルールがある。またEUの経済的連帯の恩恵を最も受けている国はイタリアである。特殊な状況のなか沈黙するイタリアを前にOcean Vikingはフランスに安全な港を求めざるを得ない」とイタリアを非難しました。こうしてフランス政府はOcean Vikingをトゥーロンの軍港へ迎えて難民全員を国際エリアに下船させました。

 欧州に来る難民の90%は陸路なので、非常に危険な海路を選ぶ人たちは全体から見れば少数なのですがインフラ大臣兼副首相サルヴィーニはFanpageの取材で「船でイタリアに来る難民は、今年は約9万人にのぼる。そのうちフランスが受け入れたのは僅か38人、欧州全体では117人だ。抗議したいのはイタリアの方だ」と言いました。イタリア内務省によると2022年の難民数は昨年と比較して多いということですが、ヨーロッパの国々に義務付けられている難民受け入れには全く影響ありません。UNHCRによると昨年フランスは人口の0,7%にあたる難民を受け入れたのにひきかえ、イタリアの受け入れ数は人口の僅か0,2%ということです。

 とにかくフランスはOcean Vikingを受け入れたのでイタリアからの難民3,500人の受け入れは保留にしました。そして国境の町ヴェンティミリアではフランス側が扉を閉ざし、いつものごとく行き場のない難民で同町の難民キャンプはますます膨れ上がり、政府は実質的にこの難民キャンプの支援をやめているので地元住人の善意とボランティアが難民キャンプを支えるのです。

 この5年間フランスとイタリアは経済問題など事あるごとに揉めてきました。そして難民問題が再燃し外交問題(要するに口喧嘩)に発展したので、欧州議会では難民受け入れについて加盟国全体で協議すべきと各国に収集をかけました。本当のところ地中海で救助した難民の処遇に関して今まで効果的な解決策は皆無なのですけれど…でも話し合いは必要ですよね。因みに先日の欧州議会でタイアーニ副首相は成果無しの手ぶらで帰国しました。難民問題、イタリアの意見は通らず!と言ったところですね。とはいえEUは各国が納得する解決策を見つけることができるのでしょうか?

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