Accademia Italiana

本格的に学びたい方のためのイタリア語教室。アカデミア イタリアーナ

RUBRICA イタリアに関する情報とコラムをお知らせします。 時々イタリアでないことも。

唐木 麻美 )

「"体調不良"ってイタリア語でどう言いますか?」

 新型コロナワクチン接種が進んでいるイタリア社会に明るさが戻りつつあります。昨日の感染者は1,820人、死者82人と日毎に減少しているので、イタリア社会は新型コロナ前に戻る事への喜びと、今年こそ夏のバカンスを憂いなく楽しめることへの期待感に溢れています。そんな中北イタリアのマッジョーレ湖のロープウエイのキャビンが100m転落して死者14人を出す大惨事になってしまいました。唯一の生存者であるイスラエル人の5歳の男の子は、最後の瞬間にお父さんに抱きかかえられて九死に一生を得ましたが、彼を除く家族は皆この事故で亡くなりました。今はもうICUから出て自力で食事できるようになったということです。2014年~16年にかけて営業を休止して大規模修繕が行われて、数年後の大惨事ということで事故原因が捜査されています。人為的ミスの可能性も取り沙汰されていますが原因解明にはまだ時間がかかりそうです。

 さて、今回はイタリア社会の話ではなく語学学校のコラムらしくイタリア語表現について考えてみましょう。イタリア語を勉強すると早い段階で“avere mal di pancia(腹が痛い)”とか“avere mal di testa(頭が痛い)”、“avere mal di stimaco(胃が痛い)”という言い方を覚えます。いずれもavere(持つ、英語のhave)を使って体の状態を表現します。直訳すると“~という状態を持っている”となるわけです。もちろん実際に使用する場合は動詞avereを人称に応じて活用することが多いので、活用形を覚えることは必須です。でもイタリア語の動詞の活用は英語が3種類に対して6種類…ここに至ってイタリア語は日本人にとって親しみやすい発音で可愛いツラして本当はすごく嫌なヤツだということがバレてしまう瞬間ですね。

 それはともかく、同じようにavereを使って言う“avere malore”という表現はテキストにあまり出てきません。個人的に常々不思議に思っていますが、ここであるダラス在住のイタリア人が書いたことが面白かったので一部要約してご紹介します。

 

「(友達カップルとのディナーの席の会話)

-イタリアでは“malore”で死ぬことがあるって知らなかったでしょ?

-“malore”って何?

-「例えば電柱にぶつかって痛かった」とき、あるいは「機関士が体調不良だったので電車が脱線」、「元気だった子供が原因不明で死んだ死因は体調不良」と言われるとき“malore”が使われるの。要するに体調不良のとき“avere malore”と言うのね。でも、どこがどう悪くて原因は何かということを正確に言っているのではないのよ。だけどイタリア人は“avere malore”と聞くと、それで終わりで納得するの…」  

 

 この会話の続きはアメリカ人の彼に“malore”のニュアンスを英語とスペイン語で説明するもなかなか分かってもらえず、イタリアにだけこの手の表現があるのだろうと書き手は断じています。

ちなみに“Malore”は英語では“sickness”(病気)と訳されています。イタリア語の国語辞典では“malore”は「①体の状態が悪いこと、不意に失神すること、②病気」(Zingarelli)とあり、Treccaniではもう少し詳しく「体調不良、多くの場合不意に起こる、意識障害の原因となる場合もある、場合によっては死に至る」とあります。日本人的感覚では「体調不良」とか「気分が悪い」、場合によっては「気持ちが悪い」に相当する表現ですね。漠然と体の状態が悪いことを言うこの表現、イタリアでは新聞などでも多用されていることは言うまでもありません。

 先に要約したコラムのコメント欄に面白いコメントがあったので幾つか見てみましょう。

コメント①「最近、建物も“体調不良”で、非正規労働者への賃金未払いで内部崩壊した」

このコメントには“???”のコメントも付いていました。国語的にはもちろん✖ですがユーモア一杯で面白いです。

コメント②「イタリアには体の状態について直接的に言及してはいけないタブーがあると思う。“malore”に関しては、何か致命傷になり得る発作とか(体調の)急変を正確に言わないために使われている。人々が“malore”と言うのは、この言葉が“脳の動脈瘤”や“鬱血性梗塞”のような言葉より怖くないから。タブーといえば、“ガン”もそう。有名人や政治家の死は“ガン”ではなく“長い闘病の果てに(di una lunga malattia)”と表現されるよね?でも“エイズ”は別扱いになる。同性愛者の監督の死因は“エイズ”に対して、異性愛者の人たちの死因は“長い闘病生活の果てに”だ…」

 

 “体調不良”も“長い闘病の果てに”も、イタリアでは両方ともよく使われる一般的な表現ですが、“長い闘病の果てに”の方は病名を明らかにしていない場合も含まれます。一般的に日本語と比べて文法や語彙が厳密に細分化するイタリア語、この傾向はイタリア語のみならず印欧語全体に共通する性質です。日常的に使っているとはいえ、そのような言語環境のなかで漠然と体調不良を意味する“malore”はイタリア人にとってとても不思議な存在なのでしょうね。日本人的には全然違和感ないですけれど。

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