コラム

「武漢ウイルスが明らかにした不平等」

karakimami

 4月10日時点でイタリアの感染者数147,577人(前日比1,396人増)、治癒者30,455人(前日比1,985人増)、死者18,849人(前日比570人増)です。死者の数は一桁減り、重症患者も減少しています。イタリア政府は外出制限を5月3日まで延長することを決定し、国民の関心は経済対策に移ってきています。また医療関係者の精神的ストレスは大変なもので、今後はこうした人たちへの心のケアが必要でしょう。

 政府の赤字削減のためにイタリアの医療制度は常に予算削減の対象にされてきました。例えば各州で妊婦ケアが充実しているところと、そうでないところが過去に問題になっています。税収が豊かな北部は妊婦ケアも充実している一方で南部の妊婦さんは悲しい状況に置かれているのです。ナポリでは新しい総合病院が開院するも、予算不足で備品すら購入できず開業できない科がある(TVでがらんとした室内に機材一つない様子が映し出されたのが印象的)など、今回取り上げる記事に出てくる例以外に実はたくさんありました。そのどれもがトップ記事を飾るほど大きな問題ではなく、各紙の小さな一角にひっそり掲載されるような類の記事でした。今となっては武漢ウイルスという大きな一撃で崩壊寸前まで行くイタリアの医療制度の脆弱性を警告する小さな発煙筒だったような気がします。今回パンデミックを乗り切るためにロシア、中国、ウクライナ、キューバなどから医師団を派遣してもらい大きな借りを作ったイタリアがパンデミック後これら国にどう対応していくか、もし特定の便宜を図るようになればEUの結束は緩み(ただでさえもうガタガタなのに…)、自由主義陣営の西側諸国が喰いものにされていく突破口になりかねません。政府はパンデミック以前から経済的利益を求めて中国との関係を盲目的に密にしていました、今でも中国に忖度するイタリア政府(&メディア)はパンデミックが去った後の経済危機を独立した自由民主主義国家として乗り切ることができるでしょうか?

 さて、今回はイタリアの保健制度に絡む記事です。このようなパンデミック関係の検証記事は今後多く出てくると思いますが、まずはこれから。

『武漢ウイルス(新型コロナウイルス)は皆を平等に打倒したわけではない:

貧しいものは一層苦しむ』

 疫学と衛生学を専門にする医師ジュセッペ・コスタと社会学者アントニオ・スキッツェロットが明らかにしたように、公衆衛生の観点から感染リスクが一層高い人たちがいることから武漢ウイルスは社会階級の違いを際立たせつつある。全国的な保健医療制度が不十分なことは特に重要な点だ。 武漢ウイルスの世界的流行は社会階級間の差を際立たせる、国民の行動制限措置は社会で最も弱い層に経済的影響を与えつつあるだけでなく公衆衛生の観点からもより感染リスクが高い人がいることも明らかになったからだ。(中略) Voce.infoに掲載されたジュセッペ・コスタとアントニオ・スキッツェロットの記事の見解は、感染は人を選ばない(イタリアでは高齢者は感染リスクがより高い)、同年代では感染リスクは同じ、様々な社会的集団の感染リスクの度合いは異なる、他の病気の場合と同じく皆が等しく弱いわけではない。そこに複数の条件、近年次第に縮小されてきた保健医療制度の構造的問題に絡む要因が特に大きく影響している。  

在宅ワークと工場で働くこと

 まず職種である。管理職もしくは“頭脳労働”者(保健衛生関係者を除く)は自宅や安全な場所で働くことができるので重篤な感染者と接触する可能性は低い。一方労働組合がない小さな工場で働く期間限定労働者は特に、明らかにリスクが高い。その上、今となっては本当に皆にとって有効な安全策を見つけることは不可能だ。

不平等な感染

 感染は個人によって大きく異なる。より低い社会階級に属する感染者の方が死亡する確率が高い。考慮すべき過去の疾患がいくつかある:感染者がそのどれかを持っていると、具合がさらに悪化しやすく、さらには死に至る。慢性疾患は低い社会階級に多いというデータがある。ジュセッペ・コスタとアントニオ・スキッツェロットは2型糖尿病の患者数と関係していると指摘した。2018年トリノで指摘したように、2型糖尿病は“感染して不幸な結末にいたる非常に重要な要因である慢性疾患”の一つで、性別が同じの同年代の人でこの慢性疾患を患う人で大学卒業者の割合は4,5%、13%は義務教育しか受けていなかった。 武漢ウイルスでより死亡しやすい慢性疾患の患者分布に一致する。慢性閉塞性肺疾患、虚血性心疾患、脳血管疾患、心不全も同様である。特に経済的弱者が前述の慢性疾患を患っている場合、病状が急激に悪化することが強調されている。持病を抱える社会的弱者は富裕階級の人間のように早く治療を受けられないからだ。

構造的に不十分な国の保健医療制度

 今回のパンデミックは長年にわたって緊縮一方だった国の保健医療制度が十分ではないことを際立たせた。予兆は数年前からあったが常に無視された。例えばインフルエンザの流行時に救急外来に患者が山積みになっていても全員分のベッドがない。このため専門家は“重大事にシステムが耐えられず、イタリア人の健康に関して不平等な結果になる”と話していた。今後は、予防接種がなくパンデミックが起こる状況は滅多に起こらないからレアケース、とはならないかもしれない。最近の20年間だけでもSars、豚インフルエンザ、Mersコロナウイルスの流行があった。これら流行病を全て足しても現在私たちが置かれているような大混乱にはならなかった、なぜなら上記の流行病は武漢ウイルスほど感染力が強くなく、また悪性でもないからだ。だから私たちは武漢ウイルスの名と共に記録される“衝撃”に立ち向かう必要がなかった。 ゆえにSsn(Servizio sanitario nazionale国の医療システム=イタリアの医療)は非常事態を脱した段階で“国民の社会階層間にある苦痛や機能の限界、病気の危険性の違い”の問題提議しなければならない、保健衛生界に際立つ不平等を打倒すことができるように。

                            (訳ここまで)

 日本でも感染者が日を追うごとに多くなっています。皆様どうぞお気を付けて。

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