イタリアの秋も日本と同様に美しいです。とはいえ優しいイタリアの自然も近年変わりつつあるのか、先日はハリケーン・クレオパトラがサルデニア島を襲い、16人の死者と多数の被災者を出しました。犠牲になられた死者のご冥福を祈るとともに、自然を大事にし互いに共生することの大切さを考えさせられる出来事でした。
このような悲しいニュースの一方で、秋は味覚が大いに刺激される時期でもあります。
10月26日のマルケ州の新聞記事「直径30cm以上という巨大ポルチーノがマルケ州の森で発見されました。発見者はマルケ州トレンティーノ在住のグラツィアーノ・ボリオーニさん。熟練したきのこ採集家のボリオーニさんはポルチーノ(1,850g)をまったく無傷の状態で発見しました。…その道40年のベテランのボリオーニさんにとってもこんなに大きいポルチーノは初めてのことです。(訳・唐木)」
ポルチーノ(この複数形は porcini ポルチーニ)は一つの種の呼称ではなく、Boletus属のきのこ数種を指す俗称です。また形や風味が似ているためBoletus edulis を筆頭に4種類のイグチタケの商品名として用いられることもあります。
一部の菌学者はきのこの育成環境や共生している樹木の種類、形、色などで12種類に分類しています。しかし以下の4種は形や香りがポルチーノとは異なります。注意しましょう。
① Boletus edulis
俗称: bastardo (私生児)、 fungo di macchia (斑点きのこ)など
② Boletus aereus
俗称: bronzino (青銅の鈴)、 fungo nero (黒いきのこ)、 fungo di scope (ほうききのこ)など
③ Boletus aestivalis
俗称: fungo bianco (白いきのこ)、 ceppatello (小さな切り株)など
④ Boletus pinophilus
俗称: capo rosso (赤い頭)、 fungo da freddo (寒冷用きのこ)、porcino dei pini (松のきのこ)など
ところでポルチーノは秋だけの産物なのでしょうか?
良く聞かれる質問ですが、実は違います。一定の湿度があるなど条件がそろえば一年中生育します。数あるポルチーノのある一種は夏に成長しますが、秋は生えません。また他の種は秋より春の方が良く成長します。このようにポルチーノは一年中、イタリアのいたるところ針葉樹や広葉樹の森に生えるきのこであるため、イタリア人の日常の食生活に密着した風味豊かな食材といえます。
ポルチーノ・ファミリーの幾つかをここでご紹介しましょう。
黒ポルチーノ(学名 Boletus Aereus )は数あるポルチーノの中で最も色よく果肉が大きいことから一番珍重されているきのこです。傘はほとんど黒に近いこげ茶色で、 aereus という名はブロンズ色を意味しています。イタリアの中北部の針葉樹の森に生育します。
夏のポルチーノ(学名 Boletus Aestivalis )は大きく立派なきのこで、傘はカフェラッテ色をしています。とても風味豊かで、古くなったり乾燥させたりするとひび割れます。広葉樹やオークの木、ブナの木、栗の木に生育します。五月から初秋までイタリア全国で収穫することができます。
優美なポルチー(学名 Boletus Elegans )は傘が輝く黄色に白い輪の模様という美しい姿で知られています。この傘は湿度が高いときにはぬるぬるします。茎はとても華奢で、上記の2種と比べるととても儚げに見えることでしょう。アルプスや北部アッペンニン山脈のカラマツに生育します。あまり大きくならないうちに収穫しましょう。
黄色のポルチーノ(学名 Boletus luteus )は黄色という名前にかかわらず、傘の下部分が黄色であるだけです。全体の色はチョコレート色で、湿度が高いとぬるぬるしてぎらぎらします。大きさは最大直径15cmで、果肉はとても柔らかくスポンジのように水分を多く含んでいます。森や牧草地の松やカバの木の木陰に生えます。
雄牛きのこ(学名 Boletus bovinus ) は、ある種の雄牛を思い起こさせる色をしているのでこのような通称になった、あるいはこのきのこが雄牛の大好物だったからこの通称になったなど諸説あります。傘は柔らかく、ねばねばしています。暗いくるみ色で直径は8cmを超えることはありません。中北部イタリアの針葉樹の森に成育します。あまり珍重されているものではないので、干すことはありません。
粒ポルチーノ(学名 Boletus granulatus )は黄色のポルチーノに似ていますが、白い輪の模様はありません。 直径は8~9cm、湿度が高いとねばねばします。傘の色は赤茶色、下部は黄色がかっています。イタリア中北部の針葉樹や広葉樹の森に広範囲に生息しています。小さなうちに収穫し、水にはつけないようにしましょう。
さて、ここまでポルチーノについて分かったところで、おいしく賞味するレシピも見てみましょう。
① にんにく、パセリ、塩、こしょうで炒めたポルチーノは付け合わせとして優秀ですが、豚や牛肉、羊のローストやリブ、エスカロップの付け合せには特に相性バツグン!
② ポルチーノのリゾットも秋に生のポルチーノが手に入った場合にぜひ試したい一品です。ポルチーノの柔らかい果肉は切っても色は変わりません。また火にかけても香りが損なわれることはないので安心して料理しましょう。ポルチーノを一口大の大きさに切りそろえます。浅い鍋にバターを溶かして、薄く切ったたまねぎを入れます。たまねぎが色付かないように火を入れて、そこにお米を入れます。2分間炒めて、お玉一杯分(他の分量により変わります)野菜のブロードを加え、かきまぜながら中火で煮ます。テーブルに出す直前に少しブロードを足すと良いでしょう。別の浅鍋にオリーブオイルとつぶしたにんにく一片を入れてささっと炒めます。そこにポルチーノを加えます。ちょっと強火で炒めて、塩と胡椒で味を調えます。さてここで先ほどのお米を軟らかくなるまで煮ます(10~12分程度)、もし水分が足りない場合はブロードを少し足して下さい。お米が出来上がる5分ぐらい前に別鍋で調理したポルチーノを加えますが、ポルチーノを少し別に分けておきます。最後にリゾットが出来上がったらバターをかけ、とろっと溶けるのを待ってパセリとおろしたパルミッジャーノチーズを振り掛けます。各自に取り分けてから、取っておいたポルチーノを適宜加えていただきましょう。
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秋の味覚 -ポルチーノー
karakimami