秋もいよいよ本番へ、そろそろ日本同様イタリアも美食の秋を迎えます。数多くの美味しい食材の中で、値段も美味もダントツ一位に輝くのがトリュフ(tartufo)です。5000年前にバビロニアの王たちが砂漠に捜し求め、その性質と外観は幾世紀にもわたって科学と哲学の議論の対象になり、哲学者テオプラストス(紀元前3世紀の哲学者、博物学者、植物学者)はトリュフは雷と秋雨の賜物であると考えました。
さあ、5000年も人間から熱愛されてきたトリュフくん。彼はいったい何者なのでしょうか?
百科事典にはこう記されています。
セイヨウショウロ科に属する
ころころとぽっちゃりした姿で、水はけが良い石灰質でアルカリ性の土壌が好き
オーク、ヤナギ、ハシバミ、ポプラ、ツクバネガシ、黒シデなどの根に共生する(部分訳)
イタリアではアッペンニン山脈の中部~北部が理想的なトリュフの居住地です。こうしたトリュフの栽培地はtartufaie(cerchi delle streghe、pianelli、caveなど他の呼び名もある)と呼ばれ、こうした栽培地では草木がないことが特徴的です。
トリュフは春の一時期を除いて年中収穫可能です。収穫はかつては子豚を使いましたが、子豚はトリュフが大好物なのでせっかく見つけた穫物を人間と分け合うより前に食べてしまうことが問題でした。現在では然るべく訓練された犬が子豚の役割を果たしています。トリュフ犬は特殊な種類の犬ではなく、小型の雑種が選ばれます。
トリュフの収穫に関して法律は「水流沿いの土手の公共地、トリュフ栽培地以外の土地、森では収穫は自由」と定めています。一方私有地の栽培地は専用の区画で分けられています。トリュフを収穫する人は、あらかじめ山岳共同体による試験に合格し、認可された許可証を得ることが義務付けられています。
収穫時は犬を2匹連れて(2匹以上連れて行くことはできません)行き、犬が見つけたトリュフを小さな鋤や鍬で掘り出します。痛んだトリュフやまだ小さいトリュフは取ってはいけません。掘り出した後の穴は丁寧に元に戻します。
こうして収穫されたトリュフはSan Sebastianoの見本市やFossombroneトリュフ協会の見本市など様々な町の見本市で売買されます。
ところでトリュフをめぐっては黒か白かの対立が長いこと続いています。今後も決着がつかない問題ですが、ここでもご紹介しましょう。
白トリュフの代表がTuber Magnatum Pico,すなわちTartufo Bianco di Alba注1(アルバの白トリュフ)
黒トリュフの代表がTuber Melanosporum、すなわちTartufo Nero di Norcia注2(ノルチァの黒トリュフ)
白トリュフの仲間にはそれほど珍重されていないものもあります。一方黒トリュフは、黒トリュフくんには気の毒な話ですが、色と形だけが似ている(そっくりというわけでもないのに…)偽者がいるので、しばしば「scorzone (気難し屋さん)」と呼ばれてしまうのです。
黒か白か、比べることはほとんど不可能のようです。実際、黒トリュフと白トリュフは風味や性質が違うために料理法もまったく異なっています。そして双方とも食物階級の頂点に君臨していることは間違いありません。
白トリュフの風味は力強く際立つ
黒トリュフは繊細で優しい
どちらを支持するかは各自のお好みで決めるのが良いと思われます。
秋の夜長、アレクサンドル・デュマの言う ”Sancta Santorum della tavola”(テーブルの最も聖なるもの)=トリュフと美味しいワインを友として過ごすか、
バイロン卿がそうしたように「トリュフの香りが想像力を高めるから机に置いて」創作活動に勤しむか、
小さく砕いたトリュフを口に入れ、その芳香に酔いながらかつての偉人たちに思いを馳せるのもまた楽しいものです。
注1 アルバはピエモンテ州クネオ県の町です。白トリュフの産地としてはAcqualagnaも有名です。
注2 ウンブリア州ペルージア県の町です。ここはスペルト小麦やチーズ、サラミなどの産地としても有名です。フランスでは黒トリュフはTruffe du Perigordが有名です。最近は中国でも黒トリュフの栽培が試みられているようです。