今年はオリンピックに出場した各選手の鍛え抜かれた美しい演技や競技に酔いしれた夏でした。選手の皆様はもとより、オリンピックを陰で支えて下さった関係者の方々のご苦労は一方ならぬものであったろうと推察いたします。本当にどうも有難うございました。
さて、オリンピックが無事終わるころ、イタリアではメダルを獲得した選手に贈られる報奨金の金額の高さを巡って議論がありました。ちなみにイタリアがロンドン・オリンピックに送り出した選手は、前回より少なく290名でした。
イタリアの選手たちは atleti azzurri と呼ばれています。atleti はアスリートのことです。続くazzurri は辞書を引くと「青色から濃い青(水色の意味もあります)」の意味の複数形の形容詞です。イタリアでは azzurro (azzurri の単数形)は国家を象徴する色であり、昔からキリスト教(聖母の衣装の色は伝統的に青)と深く関連付けられた色でもあります。
14世紀、サヴォイア家(注釈参照)のアメデオ6世(Amedeo VI di Savoia 1334-1383)通称ヴェルデ伯爵( il Conte Verde )がガリポリの戦いに赴く際、自身の旗艦船にかかげたサヴォイア家の旗のとなりに、マドンナに敬意を表して大きな azzurro の旗を翻らせたという逸話が残っています。
ちょっと話が変わりますが、日本語で言う「白馬の王子様を夢見て」をイタリア語で言うと "sognare un principe azzurro a cavallo" となります。ここでも azzurro が使われ、直訳すると「馬に乗った青い王子様を夢見て」となります。
このように azzurro の色はイタリア人の心に深く根付いた、まさに天の色なのです。イタリア国家を代表して戦うオリンピックの選手たちにふさわしい名称といえましょう。
ー閑話休題ー
本題に戻ります。それでは、そんなイタリア人選手のメダル状況はどうだったのでしょうか。
金 8個、銀 9個、銅 11個 合計28個で、前回の北京オリンピックとほぼ同数でした。
イタリアの某新聞によると金を獲得した選手には140,000ユーロ(日本円1,400万円)、銀75,000ユーロ(750万円)、銅50,000ユーロ(500万円)が報酬として支給されます。フランスの日刊紙によるとこの金額は世界最高です。続いてロシア(104,000ユーロ)、スペイン(94,000ユーロ)、フランス(50,200ユーロ)、中国(42,400ユーロ)、USA(19,000ユーロ)、オーストラリア(15,600ユーロ)、ドイツ(15,000ユーロ)…イギリス(0)となります。
この新聞記事が発端となり、イタリアの報酬額を是とするか否とするか様々な意見が飛び交いました。
肯定派の中には「長く困難な刻苦精進をして得られた成果なのだから良いのではないか」とか「これほど大きく社会全体で取り上げる問題ではない」という意見がありました。
一方で否定派の意見で多かったのは、毎日のように報じられる政府による予算削減とそれに伴う人員削減、国民に多大な犠牲を強いる改革の只中でこのような金額は妥当ではない、より経済状況に合った金額にするべきだ、というものです。また選手のほとんどが公務員(財務警察、警察、森林警備隊、憲兵隊など)であることから、二重に報酬を与えることになるとして反対する意見もありました。
さて、最後にある意見(要約)をご紹介しましょう。
「…現在の経済状況からこの金額を論じること、あるいはこの金額がスポーツ界に及ぼす影響、イタリアよりはるかに小額の報酬を受け取る他国のメダリストたちの経済状況やそれらとの比較などはさておき、この国(イタリア)は…議員、高級官僚、公共事業に携わる会社の役員たちが受け取る報酬はヨーロッパで一番高いことで名高い…彼らの中で誰一人としてメダリストほど誇りと満足感を与えてくれる者はいない」
注釈:中世のボルゴーニャ王国に祖を持つ伯爵家、イタリア王国(1861-1946)の王家となるも第二次世界大戦後1946年の国民投票により王政廃止、共和制になったため国外退去の憂き目にあいました(2002年帰国)。詳細は別項で取り上げたいと思います。