現在公開中の映画「テルマエ・ロマエ」、大変よくできた映画です。
映画の宣伝に直接関係ないかもしれませんが、わけの分からないローマ人に扮したイタリア人と思しき男性が”Facciamo un bagno”と叫ぶあのCMもおもしろいです。
ちなみに「お風呂に入る(水に浸かる)」という意味で使われるイタリア語は通常”Facciamo il bagno”です。定冠詞の"il"を不定冠詞”un”に変えることで「一風呂あびる」というニュアンスになります。細部にまでこだわりを持って作られた映画だからこのセリフになったのかな、と思わせられる一コマです。
さて実は映画で話されるラテン語の発音はクラウディア先生が担当しました。クラウディア先生はイタリアでラテン語を教えていたこともあります。今回クラウディア先生が阿部寛さんや上戸彩さんに教えたのは現在でも教皇庁で用いられている中世ラテン語の発音(pronuncia ecclesiastica)です。
さて、クラウディア先生にラテン語について伺いました。
ラテン語の発音には2種類あります。古代ローマ人たちが使っていたと思われる古典ラテン語の発音(pronuncia classica)と、中世以降カトリックのキリスト教会で使われている中世ラテン語の発音(pronuncia ecclesiastica)があります。
イタリアでは文化高等学校(liceo classico)、理科高等学校(liceo scientifico)、社会科学高等学校(liceo socio-psico-pedagogico)で中世イタリア語を5年間勉強し、語学高等学校(liceo lingusitico)ではさらに2年間勉強します。ここでは古典ギリシア語も勉強します。ちなみにクラウディア先生もそこに通いました。1960年代ごろまでは中学校でもラテン語勉強していました。
ラテン語というのは今は使われていない死語なので話すことは勉強せず、カトー(Catone)やカトゥルス(Catullo)、キケロ(Cicerone)、カエサル(Cesare、ジュリアス・シーザー)の作品を教材に読解のみ勉強します。
日本でも万葉集などを使って古語を勉強しますが、イタリアでも事情は同じです。
高校で勉強するラテン語の発音は中世ラテン語の発音(pronuncia ecclesiastica)です。
「テルマエ・ロマエ(Termae Romae)」というタイトルは古典ラテン語の発音に沿ったものです。Termaeの-aeは、古典ラテン語では「ae」は「ae」と発音しますが、中世ラテン語では「e」と発音します。ですからイタリア人は「テルマエ・ロマエ」ではなく「テルメ・ロメ(Terme Rome)」と読みます。
映画のラテン語は、最初にクラウディア先生のラテン語を録音して俳優さんたちに聞いていただき、その後実際に発音レッスンを行いました。クラウディア先生曰く「発音指導といってもセリフだから棒読みはダメだし、すごく大変だった」そうです。