コラム

「イタリア語の使い方。文法の間違いはどこまで許容されるのか?」

karakimami

 さて、今回はイタリア語を教える立場としてなかなか興味深い話題です。イタリア語は印欧語族のラテン語を祖語としています。同じラテン語グループのフランス語、スペイン語、ポルトガル語、ルーマニア語とは近しい関係になります。一方同じ印欧語族ですが英語はゲルマン語系統なのでラテン語系統の言語と比較すると違いは多くなります。もっとも近年はインターネットのように英語のイタリア語への輸入が大変多く、また意図的に単語を英語に置き換えて話すことなども大変良く耳にします。この辺は日本語の状況に似ていますか。

     -閑話休題-

 イタリアには方言が多くありますが、ここでは標準イタリア語の使い方を論じています。方言とは別に標準語に限っても南部と北部では発音や文法の使い方が違いますが、この記事では南部と北部を単純に比較しているのではありません。

では何が問題か?

ふつう他動詞を使ってフレーズを作る場合は目的語が必要になります。

例えば、

(日本語) 私はリンゴを食べる

(英語) I eat an apple

(イタリア語) Io mangio una mela

となり、“una mela”の部分を目的語(直接目的語)といいます。でも自動詞の場合は目的語はいりません。例えば

(日本語) 私は 行く

(英語) I go

(イタリア語) Io vado

となります。目的語はいりません。

以下の翻訳した記事で問題になっているsedereの意味は“座る”で自動詞に分類される動詞です。ですから目的語と組み合わせた文章は本来であれば文法的に間違っているのです。記事中にはsedere以外にも“出る・去る”を意味する動詞uscire (esci)、“下がる・下りる”を意味するscendere、“上がる・上る”を意味するsalireが出てきますが、いずれも自動詞であり目的語を必要としません。 でも多くの地方で目的語と組み合わせたフレーズが日常的に使われているという現状があり、クルスカ学会(イタリア語の学会。1583年フィレンツェで創立)がそれを容認する返答をHP上に掲載したところ、喧々諤々の騒動になったということです。 それでは、記事を見てみましょう。

『“siedi il bambino子供を座らせる”や“esci il cane犬を外に出す”、

(文法的に間違っていても)クルスカ学会の見解では大丈夫。でも文書では不可。』

「あらゆる家庭環境ではしばしば言語の簡潔化という現象がおこる」として文法の特例が認められた。これに反対する人たちがネット上で声を上げ文法的厳密さが要求。

“siedi il bambino”(子供を座らせる)、“esci il cane”(犬を出す)“sali la spesa” この様な日常生活の決まりきったフレーズは、家の中で使われる言葉の簡素化という名の下に今では大手を振って使う事が可能だ。とはいえ、大勢のイタリア人を恐怖に陥れたこの決定を巡ってメディアがこぞって大騒ぎした次の日、クルスカ学会はこのような使い方は書き言葉には不可と細かく規定した。

全論争はクルスカ学会のHPに掲載された発言「間違いであることは永久に変わらないが南部で広く用いられている表現は許容しうる」に端を発している。クルスカ学会の公式HPにある質問コーナーへの返答が始まりだった。「多くの読者から、動詞sedereを人称直接目的語と一緒に使うこと(siedi il bambinoとかsiedilo lì(そこに子供を座らせなさい)など)は妥当か、という質問が寄せられる」。

このような質問に対するヴィットリオ・コレッティ氏の返信(https://www.accademiadellacrusca.it/it/lingua-italiana/consulenza-linguistica/domande-risposte/siedi-bambino-fallo-sedere)には

「いわゆる、あらゆる家庭環境では限定的な状況に対応するために言語の簡素化が頻繁に起こる、例えば泣いたりしている子供に椅子やソファに早く座るように促したり、座ったままでいさせたり、座らせなけらばいけない場合がそうである」とある。 こうした切迫した状況では、少し前まで間違いと見なされていた表現を使用しても構わないという最大限の柔軟性を発揮することが許される。

「sedereを使った他動詞的フレーズは正しいか?」という問いには「はい、と答えることができる。salireやscendereのように目的語を内包している動詞(訳注:上がる・登るの動詞salireや下がる・下りるの動詞scendereの場合は階段や斜面の意味が動詞の意味に含まれていること)を使ったフレーズと同じとはいえないが、今や皆が使っている。実のところそれを禁止することや、使わないようにアドバイスする理由は見当たらない。”とコレッティ氏は続けている。

人称直接目的語と共にsedereを用いるフレーズは今では育児書や車のベビーシートの取扱説明書にも書かれている。つまり、最近のことであるとはいえかなり広まったフレーズである。グーグルブックスで検索すると1865年クレモナで出版されたテキストに“siedilo sopra una poltrona damascata”(ダマスク柄のソファに子供を座らせなさい)が出てくる (N.F., “Memorie storiche della Colonna Mantovana nella guerra d’indipendenza 1848-49”)。

動きを表現する動詞は本来であれば自動詞に分類されるのだが、それは重要ではない。「動きを表す動詞、例えばsedereだが、このような動詞が地方で広がり続ける大衆的な使い方において、目的語と共に使用することを許可する。また簡潔で効果的な表現においては文法にこだわらず使うことができる」としている。 “esci il cane”というフレーズも同様である。その他「動きを表す他の動詞、例えばsalireやscendere以外にuscireや南ではentrareに至るまで、イタリアの州の多く(南部だけではなく)では、特に命令法において直接目的保護との組み合わせが許容されている(例えば、sali/ scendi il bambino dalla nonna(お祖母ちゃんに子供を座らせる・おろす), esci il cane)」と言及している。

Facebook上ではこれに同意しない人たちがいる。「正しいイタリア語に入り込んでくることがありませんように… 必要性が見当たらない。“esci lo scatolo”(箱を出して)とか“scendi lo scatolo”(箱を下ろして)みたいな文は虫唾が走る」とフランチェスカは書いている。「学校の用務員が“uscite dentro”(訳注:中に出ろ→中に入れの意味で使っている。文法的には間違い)と言うと皆で笑っていたものだけれど当然よね。」とテレーザ。続けて「こんな事信じられない。とても深刻な文法上の間違いなのよ。例えばlo telefono(彼に電話する)みたいな間違い(ロザリア)」。「何てことだ、“esci il cane”とか“siedi il bambino”なんていうフレーズを正当化してしまった。僕はお気に入りからクルスカ学会を外さなくてはならなかったよ。君たちにとってあいにくなことに…」とクリスティアンは締めくくった。

                            (訳ここまで)

 今回は非常に興味深い記事でしたが、記事中に出てくる文法的に間違ったフレーズに最初は戸惑いました。

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