Accademia Italiana

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唐木 麻美 )

アフターピルには処方箋が必要か?

フランス、イギリス、ドイツでは2015年春から事後避妊薬EllaOne (商品名:エラワンEllaOne、主成分:ウリプリスタル酢酸エステル)が医師の処方箋無しで購入できるようになります。

イタリアではカトリックの医師や薬剤師がこれを「隠れた中絶行為」と危惧しています。現在イタリアではエラワンを希望する女性に対して、事前に妊娠検査を受けることが義務付けられています。従ってエラワンの利用者は年間わずか2万人に過ぎません。

半年前、薬の生産元はイタリア医薬品庁に妊娠検査義務を外すように要請しましたが、イタリア医薬品庁は倫理的な問題があるとして内閣全体で議論する見通しだと返答しました。

欧州医薬品庁がエラワンの使用に際して処方箋は不必要という決定をした時、イタリアはその決定に反対した数少ない国の一つでした。イタリア医薬品庁は時間をかけて専門委員会で審議する見込みで、倫理的な問題がある場合は各専門機関で結論が出るまでに審議が長期間になることが予想されます。

広く知られているようにイタリア人の大部分はカトリック教徒です。カトリック教会はレイプ被害による妊娠や母体保護の場合を除き、胎児を殺すということは罪とされています。しかしカトリック医師協会の会長である婦人科医フィリッポ・ボーシャは

「薬の使用禁止に賛成でも、反対でもありません。エラワンを飲むことは中絶するということですが、この事を問題視しているのではありません。むしろ13歳から14歳で性的関係を持つ若い人たちの方が心配なのです。こんなに早い年齢からこの種の薬を飲むと、身体の成長に影響があるかもしれないからです。イタリア医薬品庁と政府があらゆる手を打つと信じています。」

一方でカトリック薬剤師会のピエトロ・ウロバは厳しく「このような薬は流通させてはいけないでしょう。中絶薬なのですから。受胎する可能性を阻止するなんて、まったく嘆かわしいことです。このままでは私たちは訴訟をおこす準備をしています。私たちは反対です。」

Scienza e vita (科学と生命)の会長エマヌエラ・ルッリは「このような重要な薬にたいしてあまりにも責任が無さ過ぎます。イタリアでは風邪薬100ミリグラムの薬でさえも医師の処方がなければ購入できないのですよ。」

中絶が“手軽に”できることへの危機感について Pontifica accademica per la vita (Pontifical Academy for Life)名誉会長エリオ・スグレッチャ師が言及していますが、

一方で避妊協会の会長エミリオ・アリージは反対の立場とっています「他でもない欧州医薬品庁のような重要な機関が決定したことですし、処方箋無しで薬を手に入れられることは理に適っています。女性にとっても、薬の有用性にとっても合理的な判断です。現在この薬を必要としている人は無駄な手続きを延々として、ようやく購入しているのです。緊急避妊ということが二の次になっているようです。」

実はイタリアでは堕胎行為は1978年までどのような事情でも刑罰の対象になり、実際には以下のような罰則がありました。

① 堕胎に同意していない女性(同意しているが14歳以下の女性)の場合は禁錮7~12年(第545条)

② 堕胎に同意している女性の場合は、女性自身のみならず中絶手術の実行者(医師など)も禁錮2~5年(第546条)

③ 自分自身で堕胎を行った場合、禁錮1~4年(第547条)

④ 堕胎の教唆、あるいは堕胎道具を提供した場合、禁錮6ヶ月~2年(第548条)

(女性が障害を負ったり、死亡した場合は一層重い刑罰になったことは言うまでもありません。ただし近親者や自分自身の名誉を守るために上記の罪を犯した場合の堕胎罪の刑罰は三分の二に減刑する…)

このような法律の下、多くのイタリアの女性は不法堕胎、あるいは外国(イギリスやオランダ)で堕胎手術を受けることことを選択せざるを得ませんでした。

この問題に関して女性解放運動を支持していた報道機関などが連携して国民投票の実施を求めて署名運動を展開し、その結果70万以上の署名が集まり、国民投票が行われることが共和国大統領令において決定しました。

こうして1978年に定められた法令(第194条)では、 女性は治療のために妊娠初期90日以内(4~5ヶ月)に政府の定める医療機関で堕胎行為を受けることができる、という法律ができたのです。

しかしこの194条後も、Laiga (Libera associazione italiana dei ginecologi per l’applicazione della legge 194 、194条の適用を支持する婦人科医のイタリア自由協会)の医師曰く

「年々中絶手術を受けるのが厳しくなり、多くの女性が居住する州の事情によって別の州に引越したり、あるいは国外で中絶手術を受けるように強いられています。ラツィオ州や、カンパーニア州、ボルツァーノ県などでは、90%以上の医者が中絶に反対しています。このためしばしば女性は別の州に行くよう強要されます。また妊娠初期(3ヶ月まで)での中絶を受け入れる病院は全体の64%に過ぎません、法律ではどの病院でも手術を受けられるはずですが。妊娠90日を越えて中絶する場合は、胎児に重篤な症状がある場合や母体が危険な場合で、この際に使える方法はとても少なく外国で手術を受けることを検討し始めるのです。」

そして保健省の統計も偽装されていると指摘しています

「州に70回の中絶手術を行う医療機関がるのにたいして、他の医療機関では最高でたった2床しか用意していないところがある、つまりこの病院では中絶手術が行われることが極端に少ないか、あるいはそれとなく女性に他の医療機関に行くように強要しているのでしょう。」

この記事に登場するLaiga の医師たち以外に、女性を指示する弁護士のネットワークが困難な立場におかれた女性を助けるために活動しています。

194条が100%実施されていない現実、事後避妊薬を巡って様々な見解や倫理の問題など、容易な解決策はないのでしょう。

けれども、一日でも早く女性にとって最も良い解決に至るように願ってやみません。

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