Accademia Italiana

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唐木 麻美 )

イタリア事件簿 Cronaca nera ~N.01 ルーマニア人娼婦連続殺人事件~

「犯人はイタリア人だったわ、背が高くて年は50歳から60歳くらい、太っていて髪は薄かった」

花の都フィレンツェ郊外で起きた連続殺人事件のシリアル・キラー像...

イタリアの陽気なイメージから想像するのは難しいかもしれませんが、この国でも残酷な事件やこっけいな事件、裏があるのではと勘ぐりたくなるような事件など様々な事件が日々起こっています。更新され続ける Cronaca nera (「黒い記事」の意味。警察が関与する事件の記事はこのように分類される)、今回はフィレンツェで起きたぞっとする連続殺人をご紹介しましょう。

冒頭の供述は、幸いにも生還した被害者・マルティーナが語った犯人像。彼女は、1年前に縛られて拷問され、あげくに殺害されたルーマニア人売春婦と同じように犯人に捕まって拷問されフィレンツェ郊外で磔にされた状態を、通りがかった通行人に発見されました。 マルティーナは次のように続けて

「男は小さな車に乗っていて、私をフィレンツェまで連れて行ってくれると言ったわ。でも途中で道を逸れてプラートに向かったの。ある時点まで彼は物静かだった、でも車から降りたとたん獣に変身したわ。逃げたけど追われて捕まってしまった。立ったまま腕を顔の前で交差するような格好で柱に縛り付けられた。」そして男は木で彼女を虐待し始めた。男がペンチを持って近づいてくるたびに、マルティーナは足で蹴って男を近づけないようにした。

この話はスカンディッチ(フィレンツェ近郊の人口約5万人の地方都市)で死体で見つかった売春婦に関する警察の調査書の記述と一致していた... 娘を襲った男は路上で身を売る娼婦を買って、車で隠れ家に連れて行き、柱に括り付けあらかじめ準備した道具を使って拷問とレイプをする、最後は裸の娘を磔にするように柱に縛り付けたシリアル・キラーでした。

生還した娘の協力により、DNAから判明する限り2011年7月(プラート)、2013年3月(ウルガーノ)、2014年2月(カレンツァーノ)で娼婦を同様の手口で殺していました。 メッシーナ大学で犯罪学を教えている犯罪・心理学者シルヴィオ・チャッピ(『シリアル・キラー、 Franco Angeli』(1998年)の作者)がシリアル・キラーについてパノラマ誌にコメントしました:

「シリアル・キラーは秩序型と無秩序型、基本的にこの2種類に分類されます。秩序型は注意深く犠牲者を選びます。犯罪計画を練って、武器を選び、犯罪を演出します。通常はその人間のうわべからは分かりません。無秩序型は衝動的に行動します。犯罪計画はずさんで、犠牲者を行き当たりばったりに選び、たいてい犯人が抱えている心理的問題が態度から分かります。」

記者:どのように犠牲者に近づくのでしょうか?

「秩序型は犠牲者を誘惑し、親切で上品なやり方で信頼を得ます。現代ではソーシャル・ネットワークを通じて加害者が被害者に近づく機会を得やすくなっています。例えば恋愛感情を利用して被害者に近づこうとする、出会い系サイトなどですね。被害者には髪や目の色、体つきなど共通の特徴があります。無秩序型は犠牲者を選ぶのではなく、また犠牲者に近づく方法も暴力的です。」

記者:あらゆるシリアル・キラーには共通の特徴があるのでしょうか?

「はい、暴力と殺人的なセックスが入り混じっています。セックスは卑しめる対象である犠牲者に絶対的な力を行使し、支配する必要がある場合に機能します。セックスは支配したいという絶対的な欲望に捉えられています。そのため多くの連続殺人犯の攻撃性はサディスト的で、被害者に自身の邪悪で好ましくない性質を投影するような心理的メカニズムに基づいています。このような観点から被害者が自分とは違う存在であるという事どころか加害者自身の邪悪さを映す鏡として被害者を否定するのです。」

記者:連続犯にとってコンフォート・ゾーン(安全地帯、快適帯の意味で使われる英語)とはどのような事ですか?

「親密な領域で、加害者の攻撃性が被害者の個人的範囲に忍び込むことができるところです。」

記者:それぞれ異なった種類のシリアル・キラーであってもコンフォート・ゾーンの定義は同じですか?

「一般的には、恋愛や恋愛関係ですね。」

 

記者:シリアル・キラーに関して分析を続けた結果、シリアル・キラーが幼児期に母親と対立する関係にあり、そのため大人になってからも女性を否定的に捉えることが判りました。シリアル・キラー的な態度を見せる子供を思春期に判別することは可能なのですか? 「もっとも良く知られた特徴は夜尿症、動物虐待、放火癖です。そして重要なことは繰り返し問題行動を起こしているかどうかです。他の観点からは、引き離されて親子関係が機能していない親に執着する特徴が挙げられます。簡単に言えばシリアル・キラーが執着する様子はわが子に驚きおびえた親の姿から分かるのです。」

犯人は誰だったのか? リッカルド・ヴィーティ、55歳。ルーマニア人の Cristina Zamfir を殺した罪(ルーマニア人の娘はフィレンツェ郊外で発見されたとき柱に縛りつけられて死亡)で先日逮捕されました。

ヴィーティは既婚者で、前の結婚でもうけた高校生の息子と、東ヨーロッパ出身の妻がいます。ヴィーティは何年も前から定職を持たず水道屋を営む父と働き、仕事以外では空手の審判員を務めたり、空手を教えていました。妻は清掃会社に勤めていて、カレッジ(フィレンツェの地区名)のフィオレンティーノ病院の清掃を担当しています。 妻の職場は拷問された娘たちがヘルス・センターの接着テープで縛られていたことを考えれば重要な決め手になったと言えましょう。

では、リッカルド・ヴィーティの人物像は?

「親切だけれど少し粗暴で変わっている、時に幼稚」と隣人は話す一方でフィレンツェの検察官は「獣」と表現しました。

「Sono finite, non mi salva più nessuno (俺は終わった、もう誰も俺を助けることはできないな)」 こう言ってルーマニア売春婦連続殺人事件の犯人は告白し始めたということです。 前述の犯罪・心理学者シルヴィオ・チェッピは一般の連続殺人犯とこの殺人犯との共通点について記者に質問され、以下のように答えました。

「(次第に多くの痕跡を現場に残していったため)犯人は簡単に捕まりました。犯人逮捕でようやく現実世界で何年も続いてきた悪夢が終わったのです。(中略)このような犯罪者は協力的であることが多く、取調官に有用な情報を提供することさえします。(中略)イタリアに犯罪データバンクがあれば、こういった情報から類似の事件に役に立つ完璧なプロファイリングを作ることができるでしょう。」

記者:今回犯人は数多くの痕跡を現場に残しました。これは気晴らしに警察を翻弄するため、あるいは単に自分を逮捕させるように仕向けるためだったのですか?

「犯人の意図はともかく、証拠を消すためにできるだけのことをしたと思います。被害者の選び方、場所、武器、手口は秩序型です。自滅的に行動する無秩序型ではありません。ヴィーティには自分にとって意味のある人物に対して執着し続けたり、激しくなる一方の人格障害といった精神病の症状はまったく見られません。犯罪を理解するために犯人の内面性、行動様式、他人との関係を深く掘り下げて調べる必要があります。犯人は女性たちを殺し警察に自分を捕まえさせることで、依存し恨みの対象であった女性という苦しみから自由になったのです。」

記者:犯罪の手口と攻撃性言い換えれば十字架にかけるという行動、どちらが心理的プロファイリングになるでしょうか?隣人は犯人を「ちょっと幼稚な親切さがある」と言っていますが。

「秩序型連続殺人犯についてお話した中に答えがあると思います。このようなタイプはノーマルで親切、まじめで気さくな態度の裏に本来の犯罪的人格が隠れています。邪悪で依存的な執着心、育った家族から離れられない性質、愛と憎しみという相反するやり方で女性に過度に感情依存することを考えられます。殺された女性たちは、女性を過度に支配するという犯人の妄想の象徴として犠牲にされた可能性が高いのです。犯人の行動は復讐を意味し、殺人犯を牢につなぐ世界に対する罰なのです。おぞましい行動を引き起こす犯罪者の症状に他なりません。」

現在警察の調査はまだ続いていますが、大変長期間にわたって犯罪が行われていた可能性があるとのことです。周辺の住民は犯人逮捕で安心したと同時に思いもよらなかった人物が犯人だったことに大きなショックを受けています。

そして最後に、犠牲となったルーマニア人の女の子たちに心から哀悼の意を表します。

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