コラム

イタリアの経済と生活①

karakimami

2014年最初のコラムが2月半ばになりました。

さて経済に活気が出てきたように感じられる日本ですが、イタリアでは不景気なニュースがまるで最新モードであるかのように毎日メディアにこぞって取り上げられています。

以前ツィートで簡単にご紹介したように「逼迫した家計でも栄養不良にならないための特集」などは思わず笑ってしまうほど楽観的なイタリアらしい観点から書かれた記事でした。しかし最近は読みながら胸を痛めるものも少なくありません。パレルモでは18歳の少女が歯医者の診療代を払えないために、単純な歯痛をがまんしたあげくに膿の毒素が肺に回って急死しました。専門家によるとこのような事例は稀だということですが、この少女の両親は離婚していて(父親は数年前に失踪)、家族は母親と少女の兄弟3人(死亡した少女は4人兄弟の2番目、一番下の子供はまだ5歳)でした。母は子供たちを養うために清掃の仕事をしています。問題は清掃の仕事だけでは4人の子供に十分な養育を授けて上げられないであろうことは明白ですし、乏しい家計をやりくりするために少女は普段から低栄養の状態だったため免疫力が落ちていたのかもしれません。一般に広く知られていることですが、不況は北部より南部イタリアに重くのしかかり、恒常的不況の南イタリアを一層苦しめています。

またこの一件とは無関係ですが、先日北イタリアで清掃の仕事をしていた40代の女性が仕事を更新してもらえず無職になり次の仕事も決まらず、まだ赤ちゃんの双子を抱えて途方にくれているというニュースがメディアに取り上げられていました。この女性には20歳の息子もいるのですが、息子も予定していた就職が難しくなっていると報じられています。社会階級が厳しく定まっているイタリア社会、かつてない不況はイタリアの貧しい階級を直撃しているような印象を受ける重苦しいニュースが続いていることが気になります。

さて、ドイツとイタリア、どちらの国民がより多く働いていると思いますか?

これを読むほぼ100%の人が「ドイツ人!」と即答するでしょう。

実は答えは「イタリア人」でした。

某誌の2月初旬の記事によると、OCSE(経済開発協力機構Organizzazione per la cooperazione e lo sviluppo economico)のデータが「イタリア人はドイツ人に比べて350時間多く働いているのに対して、報酬はドイツ人に比べて50%少ない」という結果を明らかにしました。ドイツ人の年間労働時間1,400時間に対してイタリア人の労働時間は1,752時間と多いのですが年収の平均はドイツ人44,800€と比べて29,000€と、

「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり
ぢっと手を見る」        -石川啄木-

の心境を連想してしまうような数字です。

記事では続けて「数年前ギリシアを発端に起こった不況の原因はギリシア人が働かないから、とまことしやかに囁かれたものです。しかしそれはまったく事実ではなく、現在でも大きな誤解です。実際、OCSE によるとギリシアは EU 諸国で最も働く国です。2012年度だけでも給与所得者の労働時間は2,034時間で、これは EU 諸国の平均労働時間1,756時間と比較して300時間以上働いています。この数字は不況が各国に広がった以降も、2008年度は1,950時間、2009年度は1,997時間、2010年度には2,016時間と段階的増加しましたが、2011年度の2,039時間をピークに低下しました。さて噂されたようにギリシア人の時間給が EU で一番高いのなら、彼らのサラリーも労働時間に比例して高いのでしょうか?2012年度のギリシア人の平均給与額は20,100€、OCSE の加盟国平均30,200€に遠く及びません。

イタリア人に関して労働時間の平均は1,752時間で EU の平均をちょっとだけ下回っています。 Il Sole 24 Ore のリポートではイタリア人サラリーマンはデンマークと比べて事

務所や公団、工場で過ごす時間が200時間多く、アムステルダムやミュンヘンと比べれば300時間以上多いのです。Censis (Centro Studi Investimenti Sociali )によるとイタリア人の平均時給は32€に対しOCSE 加盟国の平均は34€で、Ergo-Mtm 研究所はイタリア人の仕事の方法があまりにも「分類されすぎている」と指摘し、これを改革すれば状況は改善されるかもしれないと言及しています。ちなみに我がイタリアの平均給与額は29,000€です。

それでは最後にドイツの状況を見てみましょう。労働者は職場で年平均1,400時間過ごし、彼らの基本給与は44,800€です。Istituto de estudios economicos の研究によるとドイツの仕事方式は「short-week」と組み合わせそれを最大限利用することによって成果を挙げています。つまり短時間労働の週(いわゆるワーキングシェアの制度)と組み合わせた労働方式が人々を柔軟にし、気分を一新させることを可能にするのです。もしこの短時間労働週がなければ、失業率は大幅に上昇し、時間当たりの生産性は現在の58,5ドルに届かないでしょう。」

イタリア人の働き方は効率が悪いとよく言われますが、実際改革の余地は大いにあることは明白です。昨年はイタリアを代表する服飾ブランド、ラ・ペルラなどが外国の企業に買収されました。この買収が正式に決定した後、ペルラを支えてきた労働者を原状どおり雇用するとして、不安に慄く従業員を安心させるための声明が出されました。労働方法改善の一環としてリストラされるのではないかと恐れる労働者は多くいますし、どの国でも新しいことを取り入れることは難しく、特にイタリアではこのような指摘は大不況以前からされているにもかかわらずあまり変化していないような印象を受けます。深刻さを増す日々のニュースから見る限り、イタリアの政権はまだまだ難しい舵取りをし続けなければならないのでしょうか。

ところでワーキングシェアの考え方は実はイタリアの学校現場では徐々に取り入れられつつあります。学校制度改革に関する某記事で「日本の学校制度は文化的にイタリアとは大きく異なっているのだが」と前置きした上で「学校での学習時間の減少は社会階級の相違を一層大きくする」という一橋大学の川口教授の研究が紹介されていました。

イタリアの職場のワーキングシェアが進めば、イタリア版ゆとり教育で家にいる子供と過ごす時間も多くなるでしょう。

では、ゆとりの時間をどのように過ごすか?

日本にもある問題が今後イタリアにも出てくるのかもしれませんね。

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